「綾さんに頼まれて、池田からカネを取り立てた川越が怪しい」
捜査本部は、川越の身辺捜査を徹底して行うことにした。
すると、川越が以前経営していたガラス店が、遺留品と同じ金鋸の刃を購入していたことが判明。さらに内妻とY駅の地下街果物店で購入した商品を梱包していたロープが、遺留品のロープと同じであることなどが明らかになった。
川越は親しい友人に、次のようなことも口にしていたという。
「人を殺してバラバラにしたときには、手足を切って捨てれば、誰だか身元はわかりはしない……」
突如、行方をくらました川越
「B県警のデカが、バラバラ事件で俺のことを調べているらしい」
捜査本部内で重要参考人として浮かび上がったのと時を同じくして、川越は内妻にそう言い残して姿を消していた。
B県警はX県警の全面的な協力を得て、川越の行方を捜したが、なかなか成果を上げられない。X県警は川越が知人を脅して現金15万円を強奪していた事実を突き止め、強盗及び恐喝未遂事件の逮捕状を得て、足取り捜査を行うなどした。
捜査が動いたのは、死体の発見から9カ月後のこと。X県警がY市内の友人宅に潜伏していた川越を発見し、逮捕したのである。
B県警は捜査員をX県警に派遣。川越が強盗事件で起訴されるのを待って、取り調べが始まった。
「……」
これまで強姦や傷害などで前科3犯の川越は、最初の3日間、一言も喋らずに完全黙秘を貫いた。
しかし取調官は彼が真犯人であるということに自信を持ち、これまでに集まった捜査資料を提示しながら「仏を成仏させてやれよ」と、説得を繰り返す。
取り調べが始まって1週間が過ぎた。すると、徐々に日常会話を交わすようになってきた川越が重い口を開く。
「58年の×月頃、B市内の国道を降りて、車で10分ほど走ったところの竹藪に綾の死体を捨てた。今日はこれくらいにしてくれ」
その日、科捜研からは川越から採取した毛髪が、ポリバケツを梱包していたガムテープに付着していた毛髪と一致したとの報告があった。そのため、まずは川越を死体遺棄容疑で逮捕し、その翌日には完全自供を受けて、殺人・死体損壊の容疑で再逮捕したのだった。