それから、私は実際に彼女と会うことになった。
綺麗に制服を着こなしている香織さんは、面接室に入り、会釈をすると、じっと立ったまま椅子に座ろうとしなかった。私が「どうぞ、お座りください」と促すと、「失礼します」と小さく言いながら、ようやく着席した。
「ええと、今日は、たしか学校のことでご相談があるということでしたね?」
「……」
彼女は、なかなか話そうとしなかった。彼女の意思とは関係なく、一方的に心配した高畑先生が強く相談を勧めたということも考えられる。仕方がなく、高畑先生に従ったのかもしれない。なにか彼女が反応を示しそうな話題はないだろうかと考えながら、部活はなにをやっているのかとか、好きな歌手や芸能人はいるのかとか、そんなことを質問してみたが、どれもぽつりぽつりと答えるくらいで、なかなか話が深まらなかった。
「お母さんは、そんな感じじゃないんで」
しかし、次の質問で彼女の反応は変わった。
「今日、ここにくることを、お母さんは知っているの?」
「お母さんは、そんな感じじゃないんで」
これまでにないくらいに、はっきりとした口調だった。なにがそんな感じではないのだろうと思って質問すると、
「お母さんとは、親娘っていうより、友達みたいっていうか」「好きなんだけど、あんまり話さない」「なにか話すと『ふーん』で終わっちゃう。で、『あんたは気持ちが弱いから』って言われて。お母さんの言う通りだと思う」
私は、高畑先生から事前に聞いていた、彼女と高畑先生との会話を思いだした。
次は、高畑先生が教えてくれた彼女とのやりとりである。
─香織さんが、ひどく困った顔をして保健室に駆け込んできたことがあった。「どうしたの?」と聞いても、なにも言おうとしない。何度か聞くと、彼女は小さな声で生理用品がほしいと言った。保健室にあるものを渡した。
高畑先生が何気なく、「家にはあるの?」と聞くと、「ないけど、お母さんのものを盗っているから大丈夫。気づかれないし」と言った。
それを不思議に思って細かく聞くと、これまで母親から買い与えてもらったことはないという。母親に買ってほしいと頼むことができないのかと聞くと、彼女は「できない」と小さく言った。
それから、高畑先生は彼女の母親に電話した。母親の返事はこうだ。
「もう、そんな年齢ですっけ? 面倒になりますね」
その口調からは、悪意も悪気も感じられなかったが、親としての娘への気配りや配慮も感じられなかった。高畑先生にも同じ歳くらいの娘がいた。逆に、どうしてそんなに無関心でいられるのかと、不思議だったという。