暴行や暴言、育児放棄など、親が子を加害する事件が報道されることは珍しくない。しかし、こうした目に見える虐待とは異なり、見落とされがちな虐待がある。それは「ただ、無関心で共感しない」というものだ。目には見えずわかりにくい虐待に、社会はどのように対処できるのか。

 ここでは、生活保護支援の現場で働いていた植原亮太氏による『ルポ 虐待サバイバー』(集英社新書)の一部を抜粋。女子生徒が抱える心の傷を、実例をもとに紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

※事例に登場する人物名は仮名です。また、個人情報保護の観点から個人が特定されないように書き方を配慮しております

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垣間見える「ちょっと変」な母親

 中学校の養護教諭である高畑先生から、相談を持ちかけられた。

 鈴木香織さん(14歳)という中学2年生の女子生徒のことだった。彼女は、教室に入れないと訴えていて、1日の大半を保健室で過ごしていた。

 ある日、授業中の教室に彼女の姿がなかった。探し回ると、女子トイレの個室にこもっていた。数人の教員は、授業に参加したくない彼女のわがままだと考えていた。

 どこか心の問題でもあるのだろうと思った高畑先生は、母親に連絡し、児童精神科や思春期外来を受診してみてはどうかと提案した。それに母親は従った。

 数日して、母親から「思春期特有の問題って言われました」とだけ報告があった。その電話で違和感を持ったという。

「なんか、子どもに関してどことなく無関心というか……ほかになにか言われませんでしたか? 教室に入れないことは、なんて言われましたか? と聞くと『そのことはお医者さんに言っていないです』って。じゃあ、なんのために病院へ行ったんだと、つい口から出てしまいそうになりました」

 いつも高畑先生の勘は鋭い。私も同じような違和感を抱いた。

「ひょっとしたら、被虐かな?」と私がひとりごとのように言ったのを聞き逃さなかった高畑先生は、怪訝な顔をして私を見ていた。そこで私が付けくわえた。「思春期問題とは、ちょっと違うという意味です」