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「全国旅行割」に見る、“やってる感”と躍らされる国民

2022/11/29
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 制度の実施とともにあっというまに予約でいっぱいになった地域、業者、ホテルが続出したのはまさに需要の沸騰、したがって論理的には値上げするのがあたりまえだろ、ということになる。

 したがって、急な出張で出かけた私が普段より1万円以上の宿泊料を負担して、シャワーも満足に浴びることができないホテルに宿泊したのは、とんだとばっちりではあるものの仕方がない、運が悪かったと片付けられてしまうのかもしれない。だがちょっと待て、である。

「公平性」が求められるはず

 経済学的には十分説明できる今回の顛末だが、この制度は国民の税金をもとに実施されているものだ。税の使い方には当然「公平性」が求められる。ではこの公平性の観点から制度を今一度見直してみよう。

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 まず宿泊業界にとって、今回の国からの支援は干天の慈雨とでも呼ぶべき誠にありがたい施策であった。ホテル業界に関与している私から見ても感謝感激だ。国に対しては業界筋から多くの陳情があったことも耳にしている。コロナ禍を契機とした宿泊業界の壊滅的な業績低下はひとえに宿泊業経営者の責任ではなく、国が国民に対して外出自粛を含めた様々な行動制限を課したためであり、「あの時はごめんね。ちょっとこの制度で一息ついてね」という感覚なのではないだろうか。

 だがこの制度、大手の旅行サイトや旅行業者には多くの割り当てがあったいっぽうで零細業者、ましてや楽天やじゃらんなどの大手サイトに登録できないような零細なホテル、旅館はこの恩恵にあずかれなかったはずだ。ちなみに全国で約6万3000軒ともいわれる宿泊業者のうち、大手楽天トラベルに登録している事業者はその半分程度だ。登録すればよいというかもしれないがこうした旅行サイト経由での紹介にあたっては手数料が非常に高く、登録できない事業者も多いのだ。零細な業者にはそもそも割り当てが少ない、割り当て方法にも疑問、不満が残る。これは広く業界を救おうという税金の使い方として本当に公平性を担保していると言えるのだろうか。