文春オンライン

「全国旅行割」に見る、“やってる感”と躍らされる国民

2022/11/29
note

 私は仕事柄、全国各所に出張することが多い。先日も急な出張があり、九州のある都市に出かけることになった。最初からやや嫌な予感がしていた。お客様の都合もあってミーティングは日曜日の朝。土曜日夜までには現地に入らなければならない。その都市は観光地として有名な街。秋たけなわの季節。そして、世間を賑わせているあの全国旅行支援、通称「全国旅行割」の存在だ。

1泊1万円以上も上乗せするホテル

 土曜日の夕方、羽田発の飛行機。これは驚くほど空いていた。現地到着が夜なのでさすがに観光客のほとんどは現地到着してチェックイン済みなのだろう。土曜日の夜にビジネスで出かけるような奴はいない。拍子抜けしながらも空港からリムジンバスで現地に向かう。その街は仕事で頻繁に訪れているところなのだがいつものホテルが満杯ということで、駅近くのビジネスホテルを予約した。

 チェックイン。事前請求で示された宿泊料金は1泊1万7000円だ。ホテル専門家の私からすれば、どうみても1泊の通常料金はせいぜい6000円から7000円クラスのホテル。築年数も経っており、部屋は狭い。もちろん秋の旅行シーズンの週末。現在では多くのホテルでレベニューマネジメントと呼ばれる、宿泊料金のコントロール、つまり季節や曜日、天候など各種条件によって宿泊料金をフレキシブルに変更していることは知っている。それにしても、1泊で1万円以上も上乗せしているのに驚愕した。原因は例の全国旅行割だ。

ADVERTISEMENT

写真はイメージ ©iStock.com

 苦笑しながらも精算し、同僚と食事に出かける。夜遅くにホテルに戻りシャワーを浴びようと蛇口をひねると、シャワーが出ない。カランからお湯は出るのだが、シャワーにしようと蛇口をひねってもじょぼじょぼと少量の湯が出るだけで全く役に立たない。

 設備は相当に古く、浴室全体もかび臭い。深夜ということもあって抗議の電話をする気がなくなり(そもそもフロントにも誰もいなかった)、その晩は行水して寝る羽目に。出張では数多くのホテルに宿泊する私だが、近年まれにみるコスパの悪い宿泊となったことは言うまでもない。