旅行者にも不公平な「全国旅行割」
旅行者にとってはどうだろうか。国の掛け声で最大で1万1000円もトクしちゃうのだからいざ行かん、と考えて予約したものの、結局宿泊料金が普段の価格より8000円も1万円も値上げされたのでは実質いつもの旅行と変わらない程度の負担を余儀なくされたのではないだろうか。また諸物価の爆騰が続く中、旅行に行くことができない国民が多い中、時間とお金に余裕のある人たちだけが対象となるのは、果たして税金の使い方としてどうなのだろうか。一時的な喚起策といいつつも、政府はこの施策を来年も継続すると発表した。
このように考えると結局一番大きなベネフィットを得たのは、潤沢な割り当てを受けた大手旅行サイトと大手旅行業者ということになる。特に交通機関利用付き宿泊にすると最大8000円の割引になるがこのプランを選択するには直接ホテルや旅館に予約するのではなく、大手旅行サイトや大手旅行業者を使わざるを得ない構造になっていることがわかる。
「やらぬよりやったほうが良い」は当然だが…
税金の使い道、公平性という観点から考えれば、こうした配付の仕方にはやや問題があったのではないかと思われる。コロナ禍が大変なのは旅行宿泊業界だけではない。やらぬよりやったほうが良いというのは当然なのだが、ここばかりに支援を継続することに本当に社会的な意義があるのかどうかはもう少し議論をしたほうがよいのではないだろうか。
国から見れば手っ取り早く経済回復、活性化のための「やってる感」の演出にこの全国旅行割は誠に都合の良いものに映るかもしれない。そしてこの制度に色めき立ち、旅行鞄引っ提げて旅立つ国民も、よくその内容を吟味し、実際にどうなんだ、本当にトクになっているのかも含めて冷静に考えて行動しているのか疑問だ。江戸時代からお伊勢参りに代表される通り旅行好きな日本人だが、何やら国から踊らされている感がなくはない。
自分で物事を考えきちんと判断することが日本国民はどちらかといえば苦手だ。お上がいえば喜んで従う。今が良ければ、何となく楽しければ、その陰でなんの恩恵にもあずかれない人がいても、それはそれで仕方がないことだと思う。この伝でいけば、1泊1万7000円などという法外な?宿泊料でシャワーも出ないホテルに泊まる私も仕方がないですまされてしまうのだろう。今度はぜひ国には「全国旅行割」ならぬ「全国出張割」を作っていただきたいものだ。