「イーロン・マスクには、スティーブ・ジョブズの才気、そしてドナルド・トランプのショーマンシップがあります。愉快な雰囲気、芸能人のような存在感、実態的なビジネスマンの側面……これらを持ちあわせる実業家は、彼しかいません」(2022年8月9日、New York Magazineより)

 こう語ったのは、2008年のマーベル映画『アイアンマン』の脚本家だ。ロバート・ダウニー・ジュニアが演じた主人公は、派手な遊び人として世間を騒がせる発明家であり大企業CEO。そのモデルとなったのが、テスラ創業者たるイーロン・マスクだった。

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資産だけでなく、女性関係も派手

 世界一の富豪であるマスクは、アメリカにおいて「大衆文化アイコンになった唯一のテックCEO」とも言われる。実際、彼はセレブリティ、いわば芸能人的な存在だ。同国の人気TV番組で『スーパーマリオ』のキャラクター、ワリオに仮装したこともあるし、ラッパーとしても楽曲をリリースしている。ジョニー・デップと泥沼裁判を繰り広げた元妻であり俳優アンバー・ハードとも浮名を流した。

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コメディ番組「Saturday Night Liveではワリオ(右奥)に仮装 ©getty

 2020年には、個性派歌手グライムスとのあいだに産まれた子どもを「X Æ A-Xii」と命名し衝撃を呼ぶ(「エックス・アッシュ・エートゥエルブ」と読む)。本人は否定しているが、盟友だったグーグル共同創業者の妻との不倫関係も報じられた。

イーロン・マスクと婚約者(当時)のグライムス ©getty

 政治領域の逸話もゴージャスだ。よく知られているのは、ドナルド・トランプ元大統領との愛憎関係だろう。関係が良好だった2020年、トランプは航空宇宙メーカー、スペースXの宇宙船打ち上げ式典で行なったスピーチ中、CEOたるマスクに起立を命じた。そこで立ちあがった彼に対し、観衆はその日最大の拍手を浴びせたという。目立ちたがり屋で知られた当時の大統領は、歓声を止めるべく新たな命令を下した。「イーロン、やっぱり座れ!」。 

 2022年現在、ツイッター買収劇の波乱をリアルタイム投稿しているマスクは、どの芸能人よりも「話題の人」だ。その点『アイアンマン』の脚本家の解釈は当たっていた。しかし、冒頭で紹介したマスク観の続きが警句であったことも重要だろう。