1ページ目から読む
2/3ページ目

「ビジネスマンが芸能人のようになるのは危険です。たった一つのスキャンダルで数十億ドルの損失になる。CEOに求められるのは、喋りすぎないこと、良き振る舞い、寡黙な像です。芸能人とのデートでゴシップ誌を騒がせると、酷い事態につながる」

 これこそ、イーロン・マスクを唯一無二の富豪にしている理由だろう。今日の有名CEOは、株価等への配慮により、スキャンダルにつながる言動を控える。対して、マスクは、物議をかもすパフォーマンスで存在感を高めつづけている。

約5年前に起きた「キャラ変」

 実のところ、マスクは、ここ5年で「キャラ変更」を行ったと評されている。2000年代ごろの彼のイメージは『アイアンマン』のような「世界を救おうとする天才」だった。南アフリカ出身の彼は、インターネットビジネス創成期に成功したのち、前述のスペースX、そして電気自動車企業テスラを興した。それぞれの業種で政府支援機関や巨大企業、ガソリン車が主流だったころ「逆張り」の勝負に出たのだ。

ADVERTISEMENT

2022年のハロウィンの仮装。費用は購入した場合約110万円(7,500ドル)、レンタルで約14万円(1,000ドル)と報じられた ©getty

 火星入植、クリーンエネルギー利用促進といった野望の根底には、地球をむしばむ気候変動への危機感があった。それゆえ、アンチ事業計画、身内にかたよる人事、専門家軽視といった荒々しい経営スタイルすら、スーパーヒーローのような魅力につながっていたのだ。

「キャラ変更」が起こったのは2018年ごろだ。彼の伝記著者であるアシュリー・ヴァンスの言葉を借りれば「世界を救おうとする天才」から「賛否がわかれる哲学者兼インターネット荒らし」になった。自己を解放するように、物議をかもすツイッター投稿が増えたのだ。

 たとえば、同年、タイの洞窟で遭難した少年たちを救出するために小型潜水艇を提供した件。その支援を「成功する見込みのない話題づくり」だと批判した救助者に対して「小児性愛者」と罵倒するツイートを投稿したことで、テスラ株を約3%急落させた。

 さらに、テスラを上場廃止して非公開企業化する考えをツイートしたために、証券詐欺として米証券取引委員会から提訴され、会長職辞任、2000万ドルの罰金支払に追い込まれた。

 マスクは、注目の代償として、経済的な代償を支払ってきたのだ。前出ヴァンスいわく、このスキャンダル路線すら、彼がつづけてきた「事業が安定するたび全力をつくしてすべてを危険に晒していく」経営スタイルの線上にある。