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“電車のイス”がリビングに…?“いろいろ「鉄道級」な家庭用イス”を鉄道会社が作り出した話

紀伊半島のターミナルから旅立つ#2

2022/11/28
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鉄道車両は不特定多数の人が使うもの。そこから生まれた“副産物”

 モケット素材はパイル織物の一種で、汚損に強いという特徴を持つ。鉄道車両のように、不特定多数の人が入れ替わり立ち替わり座り、さらに長期間にわたって使用するような場面で強みを発揮する。

 そのため、「WEST EXPRESS 銀河」に限らず一般の車両でもおなじみの素材だ。他にもホテルのロビーのソファーや映画館・劇場のイスなどでも使われている。複数の色の糸を織り込むことで、複雑なデザインを描けるのもモケット素材のメリットのひとつだ。

「最近は一般家庭用の家具にはあまり使われなくなっていたようです。ところが、調べてみるとモケットはネコの爪とぎに強いということがわかりまして。なので、ソファーには背中面にキャットウォークを設けまして、あとはスツールもキャットハウスに使えるようにしたんです。ちょっとした遊び心、ですね」(JR西日本テクノスの担当者)

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 モケット素材はネコの爪とぎにも耐えられる——。鉄道車両モチーフの家具の話から、意外なところに話題が飛んだ。

 知り合いのネコ好きにモケットのことを聞いたことがあるか尋ねてみると、「家のソファーをモケットに張り替えている人もいる」そうで、知る人ぞ知る愛猫家向けの素材なのだとか。

 ネコにソファーをガリガリされてボロボロに、などという悩みから解放される上に、愛猫も存分に爪とぎができるという、人もネコもウインウインのモケット素材。まったく鉄道などとは関係なさそうな話題だが、モケットの耐久性の強さを知り尽くしている鉄道会社の人だからこそ思いついたということなのかもしれない。

実際に座ってみると…

 ともあれ、鉄道ファンだけではなく広く一般の人にも使ってもらいたいという思いをもって世に送り出す「WEST EXPRESS 銀河」のオマージュ家具。となれば、何はなくとも使い心地がバツグンでなければならない。筆者とてソファーに造詣が深いわけでも何でもないのだが、とりあえず座らせてもらうと……。

「WEST EXPRESS 銀河」のグリーン車座席とそっくりの1人掛けソファーは、かなり大柄な人でも全身をすっぽり包み込んでくれるほどの大きなサイズ。座った時の体のラインに合わせた形状が体をしっかりと支えてくれる。

 

 ソファーに座ったときにありがちな、おしりが少しずつ前にずれていくというあの現象。それもモケット素材のキメ細かい毛並みのおかげなのか、しっかりホールドされていておしりは前にも後ろにもズレなさそうだ。このあたり、長時間座りっぱなしになる鉄道車両を手がけてきたからこその発想なのだろうか。