ひと昔前、「太公望列車」というものが走っていたという。その列車は大阪から紀伊半島を南下して和歌山県の端っこの新宮駅までを結ぶ普通列車。夜に大阪を出発して夜通し走って朝には紀伊半島。おかげで朝釣り愛好者に愛用されていたとかで、釣り人を意味する“太公望”の名をいただいて太公望列車になったのだとか。
つまりは夜行列車なのだが、夜通し普通列車に揺られて朝から釣りにいそしむとは、なかなかの体力だなあと感心するばかり。ひと昔前といっても2000年まで太公望列車は走っていたから、乗ったことのある釣り人もまだまだたくさんいるのだろう。
で、太公望列車が消えてもう20年以上経っていて、夜行普通列車なるものは和歌山どころか日本中を探しても残っていない。いま、紀勢本線には「WEST EXPRESS 銀河」なる観光列車が走っている。が、これを“蘇った太公望列車”などというのはさすがに無理筋だろうか。いずれにしても、紀伊半島の旅は夜行列車を使うかどうかというくらいの奥深いものなのである。
東京からはじつは広島よりも“近い”駅…「和歌山」には何がある?
さて、今回やってきたのは、そんな奥深く縦に長~い和歌山県の玄関口。大阪との府県境を跨いで紀ノ川を渡ってまもなく到着する、JR阪和線・紀勢本線の和歌山駅だ。件の太公望列車も「WEST EXPRESS 銀河」も、もちろん経由している和歌山県最大のターミナル、である。
和歌山駅というと、なんだかずいぶん遠いのではないかという気がしてしまうが、実はそれほどのことはない。
新幹線を使うなら、新大阪駅で特急「くろしお」に乗り継げば1時間ほどで和歌山駅に到着する。特急で1時間を近いというか遠いというかはまあ人それぞれだろうが、簡単にいえば東京から和歌山は4時間かからない。広島よりも、近いのだ。
県都のターミナル。和歌山駅は5面8線という広大な構内を持ち、さらに改札口を抜けると和歌山MIOと名付けられた駅商業施設も待ち受ける。つまりはかなり立派な規模を誇っているのだ。
ついでに言うと、ホームの1番のりばはそのまま改札口に接している構造である。大阪方面に向かう特急「くろしお」などはこのホームを使う。
改札口を通ってそのまま列車に乗れるという究極のバリアフリー。橋上駅舎全盛のいまではあまり見かけなくなったが国鉄時代のターミナルではおなじみの構造で、このあたりも太公望列車の通ったターミナルらしさ、といってもいいだろう。