一方で、医療現場の逼迫がメディアを通じて知られるようになった影響か、医療従事者を兵隊に例え、「特攻隊」「犠牲」などと呼ぶ表現もそこかしこに頻発しており、私がTwitter のアカウントで「仕事に命を懸ける気なんてない」と呟けば、たちまち「プロ意識が足りない」「そんな人から医療を受けたくない」と、ちょっとした炎上騒ぎになりました。
普段一般市民に向けた発信をしていないアカウントの些細な愚痴ですら、プロフィール文に「医師」や「看護師」と書いてあるだけで注目が集まり、矢面に引きずり出すようなコメントが、大量に付いていました。
医療従事者の情報発信に潜んでいた“問題点”
SNSに関していえば、医療従事者側の問題もあったと感じます。2019年末~2020年2月初旬頃まで、医療従事者のアカウントの中には、「コロナは風邪のウイルスの一種なので、怯えすぎる必要はない」と、COVID-19を軽く見積もる発信が少なからずありました。しかしそうしたアカウントの発信の多くは、急激に感染が拡大した3月になった途端、「家に居てください」「自分や大切な人を守りましょう」と、自粛を勧める啓発に変わりました。
2019年末の医療従事者の発信の背景には、先述の友人の言葉通り、軽症者、無症状者も少なくないCOVID-19を、感染者数が少ない状況の中で極度に恐れてパニックが起これば、ちょっとした不調でも不安になった市井の方々が病院に殺到し、病院の機能がパンクする可能性が高い、といった懸念がありました。正直にいえば、私を含めた医療従事者達の心の隅に、COVID-19だって新型インフルエンザのように、ゆくゆくは季節性の感染症として市民に浸透していくだろうと、見通しの甘い面があった事実も否めません。
そして感染が拡大し、「不安に駆られた市民」ではない実際のCOVID-19の患者さんで病院が逼迫するようになった上、COVID-19に関する情報が蓄積され、当初の想定よりもはるかにやっかいな病気だと分かってきたために医療従事者の発信の内容が変化していった流れは、看護師としてみれば不思議なものではありませんでした。
しかし、病院の状況を知らない多くの方々にとっては、医療従事者の発信は「何もしなくて良い」から突然「最大限の警戒をしなさい」に振り切れたような、掌を返されたと受け取れるようなものだったのではないか、と感じます。