NHKの東京放送局(AK)と半年交代で大阪放送局(BK)が制作する連続テレビ小説、通称「BKの朝ドラ」は、「料理が美味しそう」と定評がある。現在放送中の『舞いあがれ!』の料理指導をつとめる広里貴子さんは、『ごちそうさん』(2013)から10作連続でBKの朝ドラに携わり、ドラマの「食卓」を支えている。朝ドラを通じて日本各地の食文化を発信する広里さんのこだわりとは、どんなものなのか。(全2回の1回目/続きを読む)

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――『舞いあがれ!』の料理指導のお仕事はいつごろから、どのようにして始まったのでしょうか。

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広里貴子さん(以下、広里) ドラマのクランクインが今年の3月下旬で、正式にオファーをいただいたのがその2カ月前の1月でした。BKの朝ドラのお仕事は『舞いあがれ!』で10作目になるので、毎年だいたい心の準備はできているのですが、お話をいただいた1月の時点では、まだ昨年度後期作品『カムカムエヴリバディ』(2021)の撮影中で、あまり動けませんでした。

広里貴子さん

『カムカム~』の撮影現場に通いながら、『舞いあがれ!』の舞台である五島列島出身の友人・知人に取材するところから始めました。まずどんな資料に当たるべきかを教えてもらい、それを読み込んで、徐々に情報を集めて。2月の末に『カムカム~』がクランクアップするのを待って、3月の頭に五島列島に行ったんです。現地のいろんな方々に、食生活や食文化についてたくさんお話をうかがいました。

 五島は海の幸がとても豊富で、とにかく魚が美味しい。それをできるだけ多くドラマの中で見せるにはどうしたらいいか、地元の食材はどういうふうにして手に入れることができるのかリサーチして、まずは入手経路を確立しました。日持ちする食材や乾物、調味料は五島から大阪に持ち帰って、ドラマの中で使っています。ヒロイン・舞ちゃん(福原遥)の“ばんば”、祥子さん(高畑淳子)が作るお味噌汁には、五島で入手した「麦みそ」を用いました。どの朝ドラでも、なるべく地元の食材を使って、その土地の良さを伝えたいという思いが強くあります。

朝ドラの食卓の裏エピソード

――番組公式Twitterアカウントが「#舞いあがれ食堂」のタグをつけてツイートする、ドラマに登場した料理の「こぼれ話」が話題です。中でも朝ドラファンが歓喜したのは、「ビワジャムを使ったハンバーグソース」の話。「舞(少女時代:浅田芭路)が祥子ばんばのビワジャム作りを手伝って瓶詰め作業をする際に、こぼしてしまって落ち込む。ばんばは舞に『失敗は悪いことではない』と教える」というエピソードに寄り添うように、舞がこぼしたジャムを無駄にせず、夕食のハンバーグのソースに活用したという逸話が明かされました。「いったいどこまで深く台本を読み込んでいるんですか!」と驚嘆したのですが。

舞がこぼしたビワジャムをソースに活用した、祥子ばんばの愛情たっぷりハンバーグ。少女時代の舞を演じた浅田芭路の好物だというピーマンを付け合わせの野菜に加えて。味噌汁には五島の「あごだし」と「麦みそ」を使用している ©NHK

広里 あれは、撮影現場で思いついたんです。もともと祥子さんは丁寧な仕事をする人で、物や食材を大事に使う人だということは、台本を読んでわかるので、その人物造形に従って台所を作り込みました。祥子さんらしい「生活感」が出るように、置いてある調理器具・食材・調味料・保存食などは、すべて私がチェックして準備しています。台所周りのしつらえに関してはかなりこだわって、気を張っていたんですが、当初はこぼしたジャムのあしらいにまでは気が回らなかった。でも、どこかで使いたいとは思っていて。

 撮影に立ち会ってみて、祥子さんの舞ちゃんに対する姿勢を見たり、何気ない会話を聞いていて、ひらめいたんです。舞ちゃんが電話で、お母さんのめぐみさん(永作博美)に「おばあちゃんと一緒にジャム作ってん」と報告している奥で、祥子さんが夕ご飯の支度をしている。「あ、ここだ」と思いました。孫のためにハンバーグの用意をしながら「およ、舞がこぼしたジャムばソースに使うてみんね」と、祥子さんは思いついたのではないかと。あのメニューは、高畑淳子さんのお姿と演技が作らせてくれました。