半年間にわたり、主人公とその周りの人々の人生、ひいては人間の営みを描く朝ドラにおいて、「食べる」シーンは欠かせないものだ。いつでも登場人物の喜怒哀楽のとなりにある「食事」。この“影の名バイプレイヤー”を、NHK大阪放送局(BK)制作の朝ドラで足かけ10年、生み出し続ける広里貴子さんが考える「料理指導の極意」とは。(全2回の2回目/最初から読む)

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初めての朝ドラは『ごちそうさん』

――そもそも、BKの朝ドラの料理指導に携わるきっかけは、どういうものだったのでしょうか。

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広里貴子さん(以下、広里) 私はもともと、辻調グループ校で講師をしていたのですが、退社して会社を設立して、大阪の伝統野菜や、大阪の食文化を普及する活動をしていました。その一環で、大阪の郷土料理を作るイベントに携わったときに、『ごちそうさん』(2013)のチーフプロデューサー・岡本幸江さんが取材でみえたんです。そこで声をかけていただいて。

『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 ごちそうさん Part1』 (NHK出版)

――初めて携った『ごちそうさん』で印象に残る出来事は?

広里 「俵型のおむすび」は印象深いですね。打ち合わせのときに「今はコンビニのおにぎりが普及して、三角が全国区になっているけれど、実は大阪はもともと俵型のおむすびが主流で、不祝儀のときに三角のおむすびを作る習慣があったんです」というお話をしたら、それが脚本に組み込まれて。

『まんぷく』では、ラーメン作りに奮闘

――東京から大阪に嫁いだ、め以子(杏)が目の当たりにする「カルチャーギャップ」として、とても効いていました。ここ10年のBKの朝ドラはどの作品も、要所要所で「食事」が重要な役割を果たしている印象があります。中でも『ごちそうさん』と『まんぷく』(2018)は、メインの題材そのものが「食」でした。「インスタントラーメンの開発」が肝である『まんぷく』は、どこからどこまで指導されたのでしょうか。

広里 「まんぷくラーメン」「まんぷくヌードル」の麺、インスタント商品は、別に指導と制作をする方がいらっしゃって、それ以外はすべて私が作りました。“謎肉”の試作工程で、いろんなパターンを作りましたね。それからスープ作り。実際に自分で、鶏胸肉だけでスープをとったらこんな味だとか、ささみだったらどうか、など書き留めたメモをもとに、「萬平ノート」に起こしてもらいました。