朝ドラの中にも「食生活の変化」がある
――BKの朝ドラに携わって10年目・10作目という節目を迎えて、変わってきたこと、変わらないことは何でしょうか。
広里 少しだけ余裕が出てきました。最初のころは自分の料理ばかりに注視していたのですが、俳優さんの動きを見て判断したりとか、ちょっとした「機転」が自分の中で生まれてきた気がします。作品数を重ねていくと、同じ時代のものが登場することもあるので、知識のストックが増えて、空いた時間で新しい勉強ができるようになったというのも大きいです。
この10年間、食材の調達を支えてくださっている農家さんや市場の方々には本当に感謝ですね。朝ドラでは、撮影のスケジュール上、季節に反した野菜を注文することが多くあります。たとえば、夏に葉付きの大根が欲しいとか、先の長い枯れた玉ねぎが欲しいとか。「今さっき畑で採ってきた」状態のものが必要だとか。私が親しくさせていただいている農家さんや市場の方々は、そういった「わがまま」にも快く対応してくださって。ちょっと早めに種を撒いてくれたり、「こういうシーンで使う」と言えば、「あ、じゃあ泥落とさないほうがいいね」とか。
――これから新しく挑戦してみたいことなどはありますか?
広里 今、大阪・兵庫の料理人仲間と一緒に魚の養殖の勉強をしています。近畿大学に委託して「アイゴ」という未利用魚を育てているんですよ。昨今、プラスチックごみを食べた魚が増えたり、寄生虫がつかないとされていた魚にも寄生虫がつくようになっています。これらは、環境汚染や生態系の変化がもたらしたものです。
『カムカムエヴリバディ』のひなたちゃん(川栄李奈)が、私が担当した朝ドラで初めてスマホを持ったヒロインでした。続く『舞いあがれ!』も現代劇。現実世界でも、朝ドラの中でも、食生活というものが大幅に変わっていくので、自分自身もそこに身を置いて考えないといけないな、と感じています。何らかのかたちで、朝ドラの中で「食材の大切さ」を発信していけたら、と思っています。
【プロフィール】
広里貴子(ひろさと・たかこ)/大阪府生まれ。辻調グループ校日本料理技術講師として勤務後、関西を中心に食を盛り上げたいという思いから(有)貴重を設立。食にまつわる観光まちづくり事業の協力や、料理教室、テレビ番組(料理系番組、歴史系番組他)や企業PR動画、雑誌などのフードコーディネート、ケータリング等、食のあらゆる事を「ごちそうプロデューサー」として行う。NHKの「連続テレビ小説」では現在放送中の『舞いあがれ!』を含む10作品の料理指導を担当。未利用魚(アイゴ)の養殖を通じて未来の食を守る活動をするRelationFish株式会社取締役兼務。
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