『スカーレット』のお茶漬け秘話
――「料理」を通じて人物を形作っていくにあたり、いちばん気をつけていることは何でしょうか。
広里 台本に書かれている人物像と、スタッフ間で共有しているイメージを、より自然に「そういうふうに見える」ようにする、ということでしょうか。「武士の娘」として育った『まんぷく』の鈴さん(松坂慶子)が、あまり料理が上手でない人に見えるにはどうしたらいいか。でも、慣れない手つきで作ったご飯の、雑な中にも工夫と、娘に対する愛情が見えるように、と考えたりします。
片や、祥子さんや、『スカーレット』(2019)の大久保さん(三林京子)のような「始末」が上手な人も、そういうふうに見えるように。食材が無駄に見えないメニュー立てを考えるとか、毎日糠床を混ぜていることがわかるように、必ずお漬物を出したりだとか。大久保さんが作る「荒木荘」の料理は、同じ晩ご飯でも、主人のさださん(羽野晶紀)には、下宿人の皆さんよりおかずが一品多かったり、それぞれの下宿人の好みに応じて、同じメニューでも各々あしらいを変えたりしていました。
――『スカーレット』の料理といえば、“大久保イズム”をしっかりと継承した喜美子(戸田恵梨香)が、ちや子さん(水野美紀)のために作ったお茶漬けが忘れられません。ドラマ本編で映ったものの何倍もの数のお茶漬けのレシピが、ちや子さんの体調やメンタルや季節に応じたメモとともに、公式サイトに掲載されていました。
広里 あれは、多めにパターンがあったほうがいいだろうと、メモしていたものを、公式サイトの制作の方から「OAに乗らなかったぶんも含めてレシピを掲載させてもらえませんか」とお話をいただいたんです。
お茶漬けって本来、わざわざレシピにするまでもなく、体が欲しているものや、冷蔵庫の余りものから作る、いい意味で「いい加減料理」だと思うんです。忙しいけれどバランスよく栄養を摂りたいときは具沢山茶漬け、疲れていたらサラサラ食べられる梅茶漬け、春になれば、いかなごのくぎ煮入りなど、喜美ちゃんなりに考えてちや子さんのために作っていたと思ってメモしていたら、楽しくなってしまって。
『カムカム』るいが作る料理は岡山寄りか、大阪寄りか…
――イベントや地域的特性が絡まない「普段づかいの料理」のほうが、かえって難しかったりしますか?
広里 本当にそうですね。『カムカムエヴリバディ』の和子さんが作る料理は、「The お母さんの味」みたいなところを狙っていったんですが、これが逆に難しい。
それから、同作で特に悩んだのは、大人になって家庭を持ったるいちゃんが作る料理は、岡山寄りなのか、大阪寄りなのか、というところでした。安子さん(上白石萌音)に「I hate you」と言ってしまったるいちゃんは、安子さんを彷彿とさせるものや、岡山を思い出させるものに対して、とても複雑な思いを抱いているだろう。その気持ちを表現するにはどうしたらいいか。