――第1話から何度となく登場し、萬平(長谷川博己)のインスタントラーメン作りの原点となる屋台のラーメンが本当に美味しそうで。まさに「飯テロ」でした。
広里 ラーメンに関しては、自分でもまさかあそこまでやると思ってなかったんです(笑)。本来ならラーメン屋さんにオファーすればいいところを、私にお話をくださったので、これは生半可な気持ちでは取り組めないな、と気合が入りました。資料に当たって、登場する時代、地域によって、スープも麺も具材も全部変えています。スープはいろいろとブレンドを変えて、それに合わせて麺もいろんな製麺所から取り寄せて。とにかくものすごい品数だったので、大変でした。結果的には楽しんでいましたけど。
――もはやラーメン店を開業できる勢いですね……。萬平がインスタントラーメンの前に成功させた事業、健康食品の「ダネイホン」、あれはどんな味なんでしょうか。
広里 意外に思われるかもしれませんが、美味しいんですよ。昆布のパテみたいなものです。ちょっとニンニクを効かせているので、パンにつけても合います。
「美味しくない」料理も必要なわけ
――BKの朝ドラには、登場人物が疲れていたり、不安定なときに「食べて“正気”を取り戻す」というシーンが多いと感じます。直近では、『舞いあがれ!』の貴司(赤楚衛二)が空っぽになって五島を訪れ、祥子ばんば(高畑淳子)の温かい家庭料理に癒されたシーンが印象的でした。『カムカムエヴリバディ』(2021)では、大阪にやってきて就職面接で傷ついて、震える小鳥のようになっていたるい(深津絵里)が、和子さん(濱田マリ)の作る味噌汁を一口飲んで、表情がやわらいだり。こうしたシーンで大事な役割を担う料理では、どんなことに気をつけていますか?
広里 とにかく「温かく見えるように」ということですね。実際の「温度」はもちろんのこと、その「温かさ」がテレビ越しに視聴者の皆さんにもしっかりと伝わるような献立てや盛り付けを考えています。挙げていただいた2つのシーンのいずれも、特別なものでも、手の込んだものでもなく、作る人が普段から当たり前に作っている「いつもの料理」なんですね。そこに「温かさ」や「温度」があると思うんです。
また、逆のパターンもあります。「美味しくない」ように見せなくてはいけない料理。『まんぷく』で萬平さんが牢獄で食べていた、犬の餌になりそうなものや、『ごちそうさん』でめ以子ちゃんが戦時中に作った「興亜建国パン」。それから、朝ドラでは何度も登場する「闇市の料理」。何が入っているかわからない(ように見える)“怪しい”雑炊は、黒米を入れて色をつけたりしています。
こういう料理のときは、すごく張り詰めます。「まずそう」に見せながらも、俳優さんの口に入るものですから、絶対に安全でなくてはならない。その責任を持たなきゃいけないという思いで作っています。撮影後にスタッフみんなで食べてみて、「言うほどまずくないね」と、ホッとしたりして(笑)。