でも、お正月ぐらいは雉真の家で食べた「ハレの日の料理」を思い出したりするのかな。おせち料理やお雑煮は大阪のものにするか、岡山のものにするのか……そんなことを、かなり時間を割いて監督とお話しさせてもらいました。それで最終的に、「やっぱり普段の料理も、おせちも、お雑煮も、大阪の和子さんの味に寄せた料理だよね」という結論になって。
――『舞いあがれ!』で、高畑淳子さんの演技を見てメニューを考えたというお話がありましたが、現場でインスピレーションが湧くことも多いのでしょうか。
広里 この2~3年で、現場で思いついてメニューを変えることが徐々に増えてきましたね。特に印象に残っているのが『おちょやん』(2020)の、一平(成田凌)が他所に子どもを作って出ていった週で、千代ちゃん(杉咲花)が寛治くん(前田旺志郎)と2人で静かに食べる朝ご飯。
本番直前に「このまま出せない気がします」
――前の晩、それまで張り詰めていた糸がプツンと切れたように、千代が初めて感情を爆発させて、一平の着物を畳に投げつけながら泣き叫んだ、その翌朝ですね。
広里 この朝ドラは「女性の力強さ」がすごく色濃く出た作品で、特にあの回では千代ちゃんの「女の意地」が胸に迫ってきました。それまで、食事を作れるような精神状態ではなかった千代ちゃんが、この朝、おそらく久しぶりにお米を炊いて、一汁一菜の朝ご飯を作った。
最初は、干し茄子とじゃがいものお味噌汁と、前日に寛治くんが作った炒飯を予定していたんですが、前の晩のあのシーンを見ていたら、だんだん「この料理じゃないかもしれない」と思ってきたんです。監督に「この料理で準備していたんですけど、このまま出せない気がします」と相談して、OKをもらって。お味噌汁はそのままで、白ご飯にめざしという、もっとシンプルなメニューに変更して、本番直前に作り直しました。
――たしかに、「釜で米を炊く」という「ルーティーン」が戻ってきたことで、千代の「再生」のはじまりを感じさせますね。「名シーンの影に広里さんのこだわりあり」ということを、改めて痛感しました。いったいその情熱はどこからくるのでしょう。
広里 やっぱり、チームワークだと思います。本当にいい環境で仕事をさせてもらっていると実感しています。スタッフ全員が、ギリギリまで粘って面白いもの、いい作品を作っていこうという目標に向かって、同じ方向を見据えている。これがBKの強みではないかと思いますね。