今年10月、アメリカの権威ある国際政治経済ジャーナル「フォーリン・アフェアーズ」に、「習近平の弱点 狂妄とパラノイアはいかに中国の未来を脅かすか」と題する論文が掲載された。
外交関係者の度肝を抜いたのは、その激烈な表現である。
「習近平は裸の皇帝である」
「この指導者は虚栄心に満ち、頑固で独裁的だ」
「中国共産党はマフィア組織」……
しかもこの論文の著者は、習近平の元部下にあたる女性政治学者・蔡霞氏(70)だったのだ。
中国の迫害を逃れて亡命先のアメリカで暮らす蔡霞氏は今回、「文藝春秋」でインタビューに応じた。彼女が日本メディアに登場するのは今回が初めてである。
剥奪された党籍と年金
蔡霞氏は習近平が校長を務めていた党の高級幹部養成機関「中共中央党校」の教授として、長年教鞭を執ってきた(2012年に定年退職)。彼女は党内の改革派として知られ、中央党校の講義でも中国の政治改革について教えてきた。
だが、そんな姿勢が習近平政権を刺激したのか、やがて彼女の言説は封殺されて行く。
〈習近平政権の成立前夜の2012年ごろから、私は政治的立場を警戒されて監視下にありました。2016年5月以降はあらゆる文章の発表を禁止され、中国国内のネット上からも名前を消し去られました。
私に対して「党を除名されたから文句を言っている」などと批判する人がいますが、曲解もいいところです。中国国内にいたころ、私は言説を発表する場を完全に奪われ、ガラス瓶に封じ込められたかのような状態に置かれていたのですから。〉
そして一時訪問先だったアメリカに滞在中の2020年8月、「深刻な政治的問題と国家の名誉を汚す言説」を理由に、中国共産党の党籍を解除された。
〈私と友人との会話の音声がネットに流出しました。相手は気のおけない友人たちで、しかも中国国外の通信アプリを使った、完全にクローズドな会話でした。
ところが、私の「習近平は罪がある」「マフィアのボスと変わらない」「中国共産党は政治的な殭屍(きょんしー)(=ゾンビ)だ」といった発言の音声データが、なぜか24時間以内に外部に流出したのです。その後、香港の国家安全法について批判的な見解を記した、友人向けに送った文章も流出しました。