入試が終わり、彼女に感想を訊いた。「まあまあ」と返ってきた。上出来だ。全然できなかったわけではないんだから。その言葉が聞けただけで、もう十分だ。あとは、結果を待つのみだ。
合格発表は、奥さんと二人で行ったらしい。僕も一緒に行きたかったのだが、バイトが入っていた。結果がわかったら奥さんから電話をもらえることになっていたので、前の晩から携帯電話の音量をいつもより大きく設定したり、ずっとそわそわしていた。
その日、バイトは午前11時からだったので、電話が来たときにはまだ家にいた。奥さんは泣いていた。
「先生、ありがとうございます。受かりました」
僕は声をあげた。思わず握り締めた拳は震えていた。奥さんは、鼻をすすりながら「番号を見つけたとき、二人で抱き合って喜びました」と笑っていた。言葉が見つからない。ただただ、涙が止まらなかった。
「やっぱり、この家族は最高だ」
3年後、彼女は無事に高校を卒業した。卒業式には僕も参列したかったのだが、コロナ禍ということもあり、それは叶わなかった。後日、卒業祝いのケーキを持って彼女の家にうかがった。
僕が来るということで、いまは都内でひとり暮らしをしている上の娘さんも、わざわざそれに合わせて帰って来てくれていた。家庭教師が終わってからは、なかなかタイミングが合わず、彼女の両親と会うのも久しぶりだった。みな元気そうで安心した。
そして、彼女はピンクのおかっぱ頭になっていた。やっぱり、この家族は最高だ。
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