12月9日、雅子さまは59歳の誕生日を迎えられた。誕生日に際してのご感想では、「今回、50代最後の誕生日を迎えるに当たり振り返ってみますと、私が、当時の皇太子殿下との結婚により皇室に入りましたのが平成5年6月9日、ちょうど29歳半の時でした。本日の誕生日で、その時からちょうど29年半になります。いつの間にか人生のちょうど半分ほどを皇室で過ごしてきたことに、感慨を覚えております」と綴られた。
今年の天皇皇后両陛下のご活動と今後の展望について、象徴天皇制を研究する名古屋大学大学院人文学研究科准教授の河西秀哉氏が考察する。
◆ ◆ ◆
オンラインを活用した人々との交流
雅子皇后は12月9日、59歳の誕生日を迎えた。新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、外出することができなくなり、天皇とともに行う公務が減少していた。皇后は専門家や関係者による「ご進講」を天皇とともに数多く受け、このウイルスについての理解を深めたほか、それによる人々への影響についても把握しようと努めた。オンライン行幸啓などデジタルを活用した新しい技術を利用して、全国各地の人々との交流を図ってきた。
天皇自身、今年2月の誕生日記者会見で、「オンラインの活用が、感染症対策としての利点だけではなく、例えば複数の場所にいる人々に同時に会うことができたり、離島や中山間地域など、通常では訪問がなかなか容易にできない地域の人々とも比較的容易に、しかも臨場感を持って交流することができるという利点と可能性があることを改めて実感させてくれるものでした」と評価している。たしかに、オンラインは便利である。おそらく、病気療養中の雅子皇后のことを考えても、直接的に出かけるよりも負担は軽減される。
とはいえ、そうした試みはものめずらしいこともあって、初めは大きく伝えられたものの、様々な情報が膨大に瞬時に伝わる現代社会にあって、次第にニュースとして扱いが小さくなり、人々から忘却されていったことも事実である。その点では、オンライン行幸啓などで皇后が子どもたちなどと交流している様子などは、もっとうまく広報することができれば、いわゆる「平成流」における人々との直接的な交流の姿とはまた異なるあり方として、定着したのかもしれない。
イギリスご訪問で“本格的な復活”
そして社会が次第にウィズコロナに舵を切ったところで、天皇と皇后も次第に外出をともなう公務を再開していくことになる。そして、夫婦ともに公務に取り組む姿を私たちは報道などで見、そして天皇と皇后の姿を認識していく。
東京都内の様々な式典への出席とそこでの「おことば」が、まず外出をともなう公務の復活の第一歩であった。
しかし、本格的な復活は期せずして訪れた。イギリスのエリザベス女王の死去にともなう葬儀への出席である。コロナ禍にあって、天皇と皇后の東京都外への外出はなかった。また、宿泊をともなう外出の経験もなかった。ましてや、国外に訪問するということもなくなっていた。コロナに感染する危険性も想定された。そうした状況のなかで、天皇と皇后は葬儀に出席するために9月17日から20日にかけてイギリスを訪問することになったのである。これは異例中の異例という出来事(そもそも、天皇が外国の君主の葬儀に出席したのは過去に一例しかない)であり、それに対する決定はまさに決断だったと言える。