もし1日が48時間なら軍事史や外交史、南極探検史も学んでいるかも
――しかも扱う歴史というのが、古典美術であったり、建築物であったりもする。本当に博学でいらっしゃいますよね。もともとお好きなんですか。
門井 過去のものはみんな好きですね。物書きになっていなくても、間違いなく歴史には興味を持ち続けていました。美術や建築だけでなく、政治史も経済史も機会があればぜひ勉強したいですし、もし1日が48時間だったら、軍事史や外交史、あるいは南極探検史も学んでいるかもしれません。
――得た知識を小説の中に面白く溶かし込めるところに技術を感じます。門井さんの小説はとても分かりやすいですが、そこは非常に配慮されているのかな、と。
門井 歴史小説って難しいという先入観ってありますよね。前もって知識が必要、とか。僕は声を大にして言いたいのですが、少なくとも僕の作品に関する限り、そんなことはないはずです。スラスラ読めて、内容的にも深いものがあるはずだと自分では思っています。
――ところで、門井さんは、大学は京都の同志社ですが、卒業後は栃木の実家に戻られたんですよね。その後また関西に移り住んだのはどうしてですか。
門井 歴史が好きだからだと思います。最初、関心の中心にあったのは京都ですが、今はもっと広がって、大阪も神戸も面白いですね。関西というのは狭い面積の中に、全部の時代がある。奈良という古代都市、京都という中世都市、大阪や神戸という近代都市が全部、電車で1時間2時間のところにある。僕にとっては関西全土が博物館みたいな感じで、すごく好きなんですね。もちろん、東京、横浜、札幌なども面白いと思いますけれども。
門井さんのガイドで近代建築を鑑賞する「ブラカドイ」
――そういえばTwitterで「ブラカドイ」という言葉をお見かけしました。横浜近辺の作家や書店員の方たちが集まって、門井さんのガイドで近代建築などを見て回る集まりがあるのですか?
門井 ああ、その話題が来ましたか……! 「ブラカドイ」というのは恥ずかしいので、僕は「横浜会」と呼んでいるんです。最初、横浜の方々を集めて、その方たちの前で僕が横浜の近代建築について語るという、意味の分からない、厚かましい会がありまして。それが好評だったのか、翌年である一昨年(2016年)には富岡製糸場、昨年(2017年)には東京・上野に日帰りで集まりました。
――楽しそう。本日お話を伺っていてもとても説明がお上手ですし。そんな門井さんが今後どんなテーマの小説を書かれるのかも気になります。
門井 『銀河鉄道の父』を刊行した後で書き始めたものが2つあります。ひとつは「別冊文藝春秋」で「空を拓く」というタイトルで、辰野金吾についての連載をさせていただいています。現在の東京駅の設計などを手掛けた建築家ですね。以前『家康、江戸を建てる』という、何もないところに江戸という町を作る話を書きましたが、今度はもともと江戸があるところに東京を作る話です。江戸が東京になっていく姿を辰野金吾という一人の人間に託して書くという野望を持っております。
もうひとつは「yom yom」で「地中の星」という連載が始まります。これは地下鉄銀座線を開通させた、早川徳次ら関わった人々のプロジェクトの話になると想定しています。つまりしばらくは、近代日本の地上と地下を行ったり来たりする生活になりますね(笑)。
写真=山元茂樹/文藝春秋