美術や建築、書物などの該博な知識に基づくミステリー小説で知られ、近年は歴史小説でも活躍中の著者。2度目の直木賞候補作である本書は、徳川家康が関東の荒れ地に、いかにして現在の東京まで繋がる街づくりの基盤を作り上げたかを、世代を跨(また)いだ大きなスケールで描く連作集だ。
「今、歴史小説を書く意義を著者と話し合ったときに、親から子、子から孫への歴史の繋がりをきちんと示すことではないか? という話になりました。それで、現在の東京にも史跡が残るような、大規模なインフラ整備に関する小説の企画を立てたんです」(担当編集者の藤原圭一さん)
各話で視点人物となるのは、利根川の東遷を手がけた伊奈忠次や、慶長小判で貨幣流通を革新した後藤庄三郎など、家康の命を受けて大計画を立案、実行した技術職の家臣たち。平易な文体で書かれた「プロジェクトX」的な現場目線の物語の魅力や、「ブラタモリ」などによる都市の歴史への関心の高まりもあってか、じわじわと従来の門井ファン、歴史小説ファンの域を超えた支持を得た。
「通常、本の売れ行きは刊行直後から下がるものですが、本書は発売直後の勢いを保っています。書店によっては未だに売り上げベスト10に残っている。特にビジネス街の大きな書店では強いですね」(藤原さん)
同じコンセプトの続編も企画中。本書の生む新たな〈繋がり〉に期待大だ。
2016年2月発売。初版5000部。現在15刷7万部