しかし一方で、奨励会に入る男女比は大きな変化が見られない。東西合わせて約200人が所属する奨励会の中で戦う女子は、どの時代も多くて3~4人。8割の人が棋士になれずに退会すると言われている奨励会で、数える程しかいない女子が棋士になるのは、単純な確率論から考えても厳しい道だ。もし男女比率が5:5であれば女性棋士は100%誕生する。
人口比は確率のみならず、マイノリティがマジョリティを相手に戦うという側面でも厳しさを増している。将棋は精神面も非常に重要なゲームで、「この人には勝てそうにないな」と思っている時より「ここだけは勝つ!」と気合を入れた状態の方が良い内容の将棋を指せる事が多い。
どうしてもマイノリティ側はそういった気持ちを向けられやすい。仲が良い奨励会員同士で研究会を開こうとなった時も、同じ立場で何か相談に乗ってほしい時も、その相手を探すのはマイノリティの方が難しい。競技人口の男女比率は、歴史の長さの違いが大きく関係するだろう。名人が誕生し400年以上が経つ一方で、女流棋士が誕生したのは1974年。こちらは50年にも満たないのだ。
棋士を目指す上で本当に性差は関係ないのだろうか
私は今年で女流棋士になってから21年が経ち、その途中ではタイトルを取り、2度の出産を経験した。そして夫は棋士である。長く将棋を指してきて思うのは、果たして棋士を目指す上で、本当に性差は関係ないのかということだ。
頭を使うゲームだから、脳の違いに意識が行きがちだが、それに関しては大きな違いを感じることはない。あくまで経験上の仮説だが、もしも性差が関係あるとしたら、それは生理によるホルモンバランスが引き起こす影響である。
生理中の腹痛など、痛みに関しては痛み止めで対処できる場合が多いが、よくある症状の眠気や集中力の低下は、頭の中で先の変化を読み、読んだ複数の変化を比較するなどの、細かく、根気のいる作業に悪影響を及ぼす可能性がある。また、生理中だけではなく、その前に起こるPMS(月経前症候群)がある場合、その影響を受ける期間は更に1~2週間と長くなる。