奨励会というのは特殊な場所だ。12歳前後に6級で入会し、四段の棋士になるまで10年程かかる事が多い。月に2回例会日があり、その勝ち星の積み重ねで昇級・昇段をする。三段になると、三段リーグという半年をかけて18局を戦うリーグに参加する。そこで原則、上位2名のみが棋士となれる。
言ってみれば2週間ごとに10年間、結果が全国に公開されるテストを受け続けるようなもので、特に三段リーグは半年間通して調子を落とすわけにはいかない。将棋というゲームを行うことに関しての性差ではなく、この「調子を落とさない」という部分に、性差がないとは、私には言い切れないのだ。
「自分も生理中はパフォーマンスが下がる」という共感もある一方で……
以前、このテーマのコラムを書いたことがある。「自分も生理中はパフォーマンスが下がる」や「PMSの間は人格が変わる」などの共感もあれば、「勝てない言い訳」や「他の業界では活躍している」という批判もあった。他の業界において、多くの場合は性差よりも個人差の方が大きいと言われている。
しかしこれは母数が多いから言えることで、将棋界の現状はそもそもの個人の数があまりにも足りていない。奨励会に入れる棋力の、限られた子が思春期に入り、もしも自分の身体と上手く付き合っていけなくなれば、そこで停滞してしまうのだ。
当然ながら私は自分の意見が絶対に正しいとは思っていない。男性は男性で、また違った悩みがあるのだろう。ただ、この体験談が、伸び悩んでいる女の子や、その身近で応援している人にとって、何かしらのヒントになれたら良いと思う。
50年に満たない女性の将棋の歴史は、女流棋士として将棋を指す女性の人数を増やしながら、棋士への歩みを1歩ずつ進めてきた。今回の編入試験の結果は0−3で不合格だったが、新たな歴史を切り開こうとした。かつての小さな里見香奈が先輩の女流棋士に憧れたように、その背中は次の世代への光になるはずだ。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2023年の論点100』に掲載されています。