筆者は、およそ20年間にわたり暴力団研究に従事してきた。2018年からの2年間は、福岡県更生保護就労支援事業所長として、暴力団離脱者や刑務所出所者の就労支援を行った。
暴力団離脱者と関わる中で大きなターニングポイントを経験した。それは、2010年に福岡県が全国に先駆けて制定し、翌年、全ての自治体で施行された暴力団排除条例(以下、暴排条例)である。この条例により、暴力団員や離脱者に対する社会の眼差しが一変した。
実際、暴排条例の施行を契機に、暴力団離脱者とその家族から様々な不安を聞くようになった。
銀行口座の開設、住居の賃貸、携帯電話の契約拒否が拒む社会復帰への壁
不安とは、暴排条例に含まれる「元暴5年条項」に起因する。この条項によると、離脱後おおむね5年間は、暴力団員等とみなされ、銀行口座の開設をはじめ、自分の名義で家を借りることも、携帯電話の契約もままならない。離脱後10年経過した時点で、教習所に通ってバイクの免許を取ろうとしたら断られたという者もいた。
要するに、元暴というと、契約という行為が一切できない。口座や携帯が無いと就職すら難しく、再チャレンジなど望むべくもない。筆者が就労支援で難儀したのは、こうした人たちの支援であった。
警察や暴力追放運動推進センターを通して、2010年度から2020年度までの間に、暴力団を離脱した者6533名、離脱者を受け入れる協賛企業に就職した者217名、就職率は約3%であった。これには、自営業を始めた者や自主就職した者は含まれないが、暴排の嵐が吹き荒れる昨今、自主就職組が多数派とは考え難い。
ヤクザの更生を阻む最も大きな障壁、それは……
暴力団を離脱しても、社会が受け入れてくれない、社会権が制約されるから生きづらい、再チャレンジができないという社会的な障壁に離脱者は直面する。