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「『生まれついた家庭が貧しかったこと』は、本当に自己責任だろうか。固定化された格差から這い上がれないのは努力が足りないせいだろうか。あなたが今、生活に困窮していないのは、本当にすべてが『あなた個人』の努力の賜物だろうか」と疑問を呈する吉川ばんびの主張には、耳を傾ける必要がある(吉川ばんび『年収100万円で生きる―格差都市・東京の肉声―』扶桑社新書 2020年)。

学び直しはひとりではできない

 再チャレンジを社会で支援すべきと主張するのは、私個人の経験にも依拠している。経済的に貧しく、DVが日常化した家庭で育った私は、10代半ばまで非行の世界にドップリと漬かっていた。家庭裁判所や交通裁判所に出頭し、いわゆる「札付きの不良」を地で行く少年時代を経験した。

 しかし、職場で、同輩から「中卒は天然記念物」と馬鹿にされたことから、23歳で一念発起し、通信制高校、大学、大学院と進学することで学び直しを試みた。

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 チャレンジを重ねることにより、自分は更生することができたと思う。学び直しは、ひとりではできない。多くの先達が背中を押し、教導し続けてくれたからこそ、自ら設定した指標を達成できた。

暴排条例施行10年目の2022年、元ヤクザを取り巻く環境は変わりつつある

 再チャレンジのタイミングは、人によって異なる。その内容は、起業かもしれないし、職業訓練や就学かもしれない。いずれにせよ、「やり直したい」と願う人が、一歩踏み出しうる環境が社会にあれば、機会の平等が保障され、あまねく全ての人にチャンスが与えられる。

 警察庁は2022年2月、暴力団離脱者の銀行口座開設を支援するよう都道府県警と金融機関に要請した。暴排条例が施行されて10年。この要請が、排除一色であった日本社会において、元ヤクザでも再チャレンジできる社会にパラダイムシフトする契機となることを、願ってやまない。

 この国を、生きづらいと感じる人を排除する分断社会ではなく、胸を張って後世に引き継ぐことができる包摂社会とするために。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2023年の論点100』に掲載されています。