2017年に東名高速道路上で起きたあおり運転による死亡事故を契機に、2020年6月の道交法改正で「妨害運転罪」が新設された。厳罰化による大きな抑止効果が期待されたが、今なお道路上での悪質な威嚇行為は後を絶たない。

 警察庁交通局によれば、2021年中の妨害運転罪の適用件数は96件。2022年は7月末までの数字で58件。厳罰化から2年が経過したが、月に8件程度のペースは当初から変わらない。あおり運転の発生頻度や、その危険性を鑑みると、十分な成果とは言いがたい。

 

妨害運転罪による取り締まりのネック

 こうした足踏みの原因は、具体性を欠く妨害運転罪の構成要件にその一端がある。そもそも妨害運転罪は、飲酒運転のように客観的な事実によってのみ認定されるものではない。すなわち、車間距離不保持など「妨害運転の10類型」に該当する事実的行為に加え、「相手を妨害する目的」および「危険を生じさせるおそれ」という2要件が揃ってはじめて認定されるのである。

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 このように違反者の「意図」を解釈しなければならない点が、取り締まりの1つのネックである。警察庁によれば、この意図の有無は「個別具体的に判断」されるとのことであり、また大阪府警は「複合的な要素を含む罪状ゆえに統一的な基準を設けることが難しい」との見解を示す。加えて、重い罰則規定を含む罪状でありながら、判断が恣意的になりかねないことから、運用にあたり慎重姿勢を取らざるをえない面もあるだろう。

 もちろん、法律の文言は実際の運用を通じて具体化されていく面もある。たとえば「ながら運転」の規制にあっては、条文にある画面の「注視」という文言が示す具体的な程度について、運用のなかで基準が明確になっていった。とはいえ、妨害運転罪の場合にはさらに多くの観点が必要であり、たとえば車間距離不保持のケースに限っても、どのくらいの時間、どのくらいの距離まで詰めていれば「妨害する目的」が判然とするのかなど、客観的な基準を設けてはかえって非効率的になりかねない。