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 このように、警察側も映像をもとにした捜査の充実化に向け新技術を導入しているが、依然として「現場とのシームレスな情報共有」には課題が残される。抜本的な解決に向けては、通信技術と情報処理技術を応用した「テレマティクス」への対応が求められるだろう。たとえば「通信型ドライブレコーダー」は、車体への衝撃や後続車の接近などをトリガーに、登録した連絡先やオペレーターに自動で通知し、クラウドを介してリアルタイムに映像を共有する。あおり運転の被害を受けている映像を、その場で第三者に共有する技術的な地盤はすでに存在するわけである。

テレマティクス関連サービスのクリアすべき課題

 ドライブレコーダー以外にも、先進安全装備の普及とともに、車両には数多くのセンサー・カメラが取り付けられ、さらに今後は通信機能を介して車両側のデータがクラウドで共有可能になっていく。個別的な取り締まりよりも、こうして張り巡らされる監視と管理の網が、将来的にはドライバーを「健全化」させていくのかもしれない。

 

 たとえば近年損保会社や自動車メーカーが導入するテレマティクス保険は、クラウドに蓄積した走行データをもとに運転特性を判別し、それを保険額に還元する制度である。これは直接にあおり運転を防止するものではないが、ここには「データ解析による高リスクドライバーの特定」および「高リスクドライバーへの不利益措置」という可能性が示されている。つまり「免許の色」よりも実際的な区分方法により、保険や行政手続きにおける差別化を図るなど、実利の面から安全運転を促す方向性も考えられるのだ。

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 もちろん、テレマティクス関連サービスに行政機関が介入するにあたっては、セキュリティやプライバシーといった面でクリアすべき課題も多い。情報提供窓口の整備を進めつつ、今後は「国家権力による監視と管理がどこまで許されるのか」についても議論していく必要がある。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2023年の論点100』に掲載されています。