拷問トラックの最期
1990年4月1日。夜明け前の薄闇のなか、アリゾナ州警察のマイク・ミラー巡査は、州間高速道路10号線でハザードランプを点滅させて路肩に停車する、一台のトラックに目を留めた。
故障でもしたのだろうか。ミラー巡査はパトカーを降りてトラックに近寄ると、運転席に懐中電灯の灯りを向けた。
しかし、誰も乗っていない。トラックの周辺を見回そうとしたその時、車内から物音が聞こえてきた。見ると、運転席の後部スペースで、馬につけるようなマスクを装着された裸の女性が、壁に鎖でつながれた状態で悶えている。
その異様な光景に、思わず言葉を失ったミラー巡査。よく見ると、彼女は怪我をしているようで、全身にアイスピックで刺されたような赤い斑点が見られた。
すると、運転席と拷問部屋を仕切るカーテンの下から、生真面目そうな男が起き上がった。ミラー巡査は咄嗟に拳銃を構え、男に車から出るよう促した。
しかし、男は動じた素振りも見せず、こう言った。
「ああ、これですか。ご心配なく、同意のうえでやっていることですから。僕らの趣味なんです」
しかし、マスクから覗く女性の眼差しからすると、とても同意のもととは思えない。ミラー巡査はその言葉を無視し、車から降ろして身体検査を行なった。そして男が所持していた22口径の拳銃を取り上げると、身柄を確保したのだった。
記録によれば、女性はパニック状態に陥っており、マスクをはずされた後もしばらく叫び続けていたという。全身には殴られた痕や鞭で打たれたミミズ腫れが認められ、クリップで強く縛り上げられた乳首は真っ赤に腫れあがった状態だった。
警察に保護されてしばらくすると、女性はようやく落ち着きと正気を取り戻した。彼女の名はキャサリン・ベイン。友人を訪ねるため、いつものようにトラック専用駐車場の前でヒッチハイクをしていたところ、ローズに拾われたのだという。
ヒッチハイクに応じてくれた際には、ローズはとても礼儀正しい人間に見えたが、眠りから覚めた時には手錠をかけられ、身動きが取れない状態だったという。
その後、事件の捜査はFBIに委ねられ、全国で同じような手口による被害報告が出ていないか、余罪の有無が調査された。
結果、いくつかの容疑が浮かび上がり、警察はその被害者たちを呼び出したものの、女性たちはローズの顔写真を前にすると目を背け、被害の詳細を語ろうとはしなかった。
皆、ローズから受けた拷問を思い出すのが苦痛であり、恐怖心を払拭できなかったのだ。