2022年2月24日、ロシア軍がウクライナへの軍事侵略に踏み切り、第2次世界大戦後、最大級の侵略戦争となるとともに、国際社会に大きな衝撃を与えた。2014年3月のクリミア併合をはるかに越える「力による現状変更」であり、ウクライナの主権及び領土の一体性を侵害する国際法及び国連憲章への重大な違反行為である。
国連安保理常任理事国であり、核大国であるロシアの侵略に対して、国際法や国連は無力であった。国際社会での孤立を恐れることなく、プーチン大統領はルビコン川を渡ってしまったが、その暴走を止めることはできるのか。
外交で侵略は抑止できたか?
2021年10月末より、ロシアはウクライナ国境付近に10万人以上の兵力を集結させ、米国や北大西洋条約機構(NATO)に対して、NATO不拡大の法的保証などを要求した。結果的に両者間の交渉が決裂し、プーチン大統領は軍事侵略という最悪のシナリオを決断した。
一見、この外交交渉がうまくいけば侵略が回避されたかのように見えるが、ロシア側の要求は米国・NATOが決して受け入れることができないものであり、最初から交渉決裂を侵略の口実に利用しようとしたのではないかと思われる。つまり、外交交渉でウクライナ侵略を抑止することはできなかったのである。
私を含めた内外の多くの識者は、プーチン大統領が大規模な侵略という非合理な決断を行う可能性はそれ程高くないと予想していた。なぜなら、十数万の限定兵力でウクライナ全土を軍事制圧することは難しく、国際社会での孤立や制裁など政治的な損失も計り知れないからである。
残念ながら、悪い意味でその予想は外れてしまった。外部の観察者が計算する損得勘定は、プーチン大統領には通じなかったのである。