プーチンの強い被害妄想と「思い込み」
一般市民への容赦ない攻撃や頻繁な核使用を示唆する発言など、当初、プーチン大統領は理性を欠いたとの見方も指摘されたが、本人は必ずしも非合理な主体ではない。なぜなら、プーチン大統領には独自の内在的論理があるからだ。
まず、ロシアが「影響圏」とみなす旧ソ連地域に、ロシアが敵視する米国率いる軍事同盟NATOが拡大することは容認できない。しかも、プーチン大統領は、2021年7月に明らかにした論文の中で、ロシア、ベラルーシ、ウクライナは同一の政治空間にあるべきと主張していた。
冷戦時代から続く米国に対する強い被害妄想と、ウクライナはロシアの保護下にあるべきという偏狭な歴史認識が折り重なり、外部からは非合理に見えるロジックがプーチンの頭の中で出来上がった。これが、ネオナチであるゼレンスキー政権からロシア系住民を保護するという軍事行動にたどり着く。独裁者のこうした思い込みを、他者が変えることは簡単ではない。
力で暴走を止められるか?
2014年のクリミア侵略と2022年のウクライナ全土侵略には、ロシアから見るとある共通点がある。それは、当時のオバマ大統領と現在のバイデン大統領のそれぞれが、ロシアが侵略しても米国は直接介入しないと早い段階で宣言した点である。
「世界の警察官」を辞めたとする米国にとって、同盟国ではないウクライナを防衛する義務はない。もし、「軍事オプションを含めてあらゆる選択肢がある」とあいまいな姿勢を示していれば、プーチン大統領が2回の侵略を躊躇した可能性はあるだろう。通常戦力で劣勢のロシアからすれば、米国との全面戦争は自滅行為であるからだ。
部分動員を発表した9月21日の演説でプーチン大統領は、「もし我が国の領土保全が脅かされた場合、我々はロシアと国民を守るために、使用可能なあらゆる兵器システムを必ず使う。これはブラフ(はったり)ではない」と述べ、領土防衛の観点から核使用も辞さない構えを見せた。さらに、占領したウクライナ4州を「併合」した上で、戒厳令まで導入した。