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圧倒的な軍事力を有する米国の対応が鍵に

 プーチン大統領が核使用に踏み切るかどうかは、最終的に米国の出方をどう計算するかによる。ロシアが核を使用した場合、米国は通常戦力を用いて、ウクライナ領内や黒海上のロシア軍に攻撃を加えるというメッセージを、水面下でロシア側に伝えているとみられている。その場合、それに対するロシア側の報復も予想され、ロシアと米国の全面戦争に発展する恐れがある。

 4州の「併合」を宣言した9月30日の演説でプーチン大統領は、「ウクライナにおける戦争はロシアの存亡を賭けた西側との戦い」であるとし、西側を「サタニズム(悪魔主義)」と呼んだ。これに対して、10月6日にバイデン大統領は、「キューバ危機以来、我々は初めて核兵器使用の直接の脅威に直面している。戦術核を安易に使用すれば、アルマゲドン(世界最終戦争)が避けられなくなる」と述べた。

バイデン米大統領 ©getty

 プーチンは核使用に踏み切れるのか、バイデンはそれに報復してロシアとの戦争を決断できるのか、お互いの腹を探り合う心理戦が始まっている。米露間の対立と緊張は、一層深まりつつある。果たしてロシアと事を構える決断を下すことができるのか、その決断を米国民が支持するのか、中間選挙後のバイデン大統領の政治力をプーチン大統領は見極めようとしている。

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 プーチン大統領の暴走を止められるのは、もはや力しかない。その場合、圧倒的な軍事力を有する米国の対応が鍵となる。米国が参戦の構えを見せてロシアが折れれば、戦争終結の出口が見えるだろう。しかし、ミスカルキュレーション(計算違い)で軍事衝突に至れば、第3次世界大戦や核戦争のリスクが生じる。

 冷戦以上に、緊張と分断が極まり、力がものを言う難しい時代に突入したと言えるだろう。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2023年の論点100』に掲載されています。