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 逆にいうならば、半世紀も前から田中が訴え続けてきた都市圏と地方との格差是正は、今に至るも成し遂げられていないということだ。空路は格安航空会社(LCC)の参入で競争が生まれた。激変する航空業界を尻目に、一向に変わらぬのは「高速道路の高額料金」だ。現行の制度は、2065年までに道路建設の債務を全額償還し、その後は無料にすると謳っている。しかし、古くなった道路、劣化した道路は絶えずメンテナンスが続けられるはずで、料金徴収期間は確実に延びる。

最も有効で、最もてっとり早い方策は

「道は国家なり」と栗岡は繰り返す。

 道とは、国力を示すバロメーターであり、ヒト・モノを運び、動かし、経済を発展させ、国を富ませる国民共有の財産であるはずだ。その共有財産がなぜ十全にその役割を果たせていないのか? 果たせていないどころか、むしろ輸送や移動を阻害し、都市と地方の格差を広げる経済障壁に成り果て、国民にとって大きな負債にすらなっているのではないか。

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ⓒiStock

 元熊本県副知事で、現在、衆議院議員である小野泰輔は地方行政に携わった経験から「高速道路の定額化」実現を政策の大きな柱の1つとしている。「例えば熊本や鹿児島のような市場から遠い地域だと輸送だけでも非常にコストがかかる。定額化するだけで経済が活性化する。出口の料金徴収のムダも省ける」

 かつて総理に座にあった菅義偉は、その施政方針演説で、地方への人の流れを作る、そして地方の所得を上げると高々と宣言した。「地方」である秋田県出身の菅らしい演説だった。菅が望む地方の活性化にとって、最も有効で、最もてっとり早い方策が「高速道路の料金定額化」ではないか。

道路の解放だけが日本経済の悩みの種ではない

 GDP(国内総生産)で世界第3位とはいいながら、その規模は米国のおよそ4分の1、中国の3分の1である。国民1人あたりのGDPに至っては、いまや世界で19位にまで落ち込んでいる。経済の退潮が叫ばれて久しいが、目に見えるようなはっきりとした経済的な手当をしてこなかった日本。栗岡は日本の成長のボトルネックは、まさに高速道路の政策にあったと指摘している。無論、道路の開放だけが日本経済再生の処方箋とは言うまい。しかし、これほど明確に効果が期待でき、すぐにでも着手できる経済対策は他にない。

 栗岡の持論は「高速道路400円乗り放題で、GDPが35兆円増加」だ。たんなる夢想と切り捨てるにはあまりに魅力的な数字である。今こそ国内需要を喚起し、経済を掘り起こす「高速道路の料金定額化」に舵を切るべきではないか。