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1億円近い費用をクラウドファンディングで資金調達することに

 いっこうに交渉が前に進まない状況が何年も続いたが、ある日、バーナム氏から「まだあの戦車を買いたいと思っているか」とメールが届いた。バーナム氏は戦車を修繕しようとしていたが、ついに資金が底をついてしまい、共同で修繕作業をしてくれるパートナーが必要になったのだという。

「バーナム氏は世界各国を回って、各国に現存する九五式軽戦車の情報を共有し合うコーディネーターのようなことをしていました。例えば、アメリカの博物館の戦車には欠けているAというパーツはロシアの戦車には残っているから、寸法を測って共有するといったことです。そのおかげで損傷の激しかった戦車の修繕が進んだのですが、当然莫大な費用がかかってしまい、私に声がかかったんです」

和歌山から英国に移送される際の九五式戦車。錆だらけで見る影もない(提供:NPO法人防衛技術博物館を創る会) 

 しかし、買取や修繕のための費用なども含め、バーナム氏に払わなければならない金額は1億円近くにものぼった。ある程度は私財で賄うことを覚悟していたが、全額支払うことは不可能だった。そこで小林さんはクラウドファンディングでの資金調達を思い立つ。

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わずかひと月足らずで目標の1500万円もの資金が

「実はこれ以前にも旧日本軍の軍用車両くろがね四起(九五式小型乗用車)を修繕するためにクラウドファンディングで資金をつのったことがあるんです。ただ、その時の目標額が1000万円だったのに対して、今回の戦車の修繕は5000万円と5倍の目標額。ちゃんと集まるのだろうかと心配でしたが、予想以上の支援をいただいて、無事に買い取ることができたんです」

クラウドファンディングで資金を集め、すぐさま現地に飛んだ (提供:NPO法人防衛技術博物館を創る会) 

 ただ、この時も小林さんの心は晴れなかった。なぜなら買い取った戦車を日本に運ぶというもうひとつの大きな問題が残っていたからである。

「戦闘能力は無いとはいえ、『戦車』を輸出入することは許されていません。そこで、『博物館展示品』として扱えるように防衛技術博物館を設立する見通しを立てました。これだけで今年の春までかかったのですが、さらに追い打ちをかけるように新型コロナウイルスによる物流の混乱が直撃しました。減便などの影響で運賃が上昇。さらにロシアによるウクライナ侵攻や急激な円安で想定よりも3倍近い費用が掛かることになりました」

戦車にしてはキュートな出で立ちで、英国の地でも愛された(提供:NPO法人防衛技術博物館を創る会)

 せっかく買い戻すことに成功した戦車を海外に置きっぱなしにはできない。小林さんが再びクラウドファンディングでの支援を呼びかけると、わずかひと月足らずで目標の1500万円もの資金が集まった。