まったく勝てない間も取材を続けた
――取材を始めてから本が出るまでの8年間にいろいろなことがありましたね。
「本を出すまでに時間がかかったのには今言った理由のほかに、相撲というのが難しいということもあります。横綱が記者会見などでよく言うんですが、『簡単なことほど難しい』。相撲は本当に難しい題材で。自分が突き止める、納得いくまでに8年かかったとも言えます。『勝つ相撲を取らないこと』がどういうことなのかと」
――白鵬が現役中のこの時期に本にまとめてよかったと思いますか。
「横綱はあと2年半はやると言っているので、このまま引退を待っていては1冊の本には入りきりません(笑)。ここで一度きちんとまとめておくのはいいことだと思いました。本の取材は17年の名古屋場所までですが。彼が大鵬の記録を超えた後、心が冷めてしまった状況でまったく勝てない間も取材させてもらって、昨年完全に復活したとわかったので、大きな区切りの段階であるという思いは強いです」
――大鵬越えへの挑戦が第1部、そして、昨年の1048勝達成が第3部で描かれています。
「第2部の双葉山越えとあわせて『3つの歴史的舞台』としましたが、3つも伝説があるアスリートなんて他にいますか? 双葉山越えは未完ですが。こんな人はいませんよ。それが確認できたのが嬉しかったです。最初に彼を見た時の輝きが本物だったと、私の小さい自負心が満たされました。ついて来てよかったという思いはものすごくあります」
白鵬を書くために奈良に引っ越した
――相撲の起源は奈良にあり、ということで白鵬および相撲について書くために奈良に引っ越しされて4年、どんなものを得られましたか?
「気の問題ですね。奈良の『気』がこの本の執筆をバックアップしてくれました」
――『白鵬伝』は伝記ではありませんが、この「伝」に込めた意味とは?
「伝には伝記、伝説、伝統などの意味があります。それで今回、『相撲よもやま話』として相撲の歴史コラムをいくつか載せました。知っているようで実は知らない相撲の歴史。これを読めばおおまかな相撲史の流れはわかるというつもりで書きました。本の中で私にとってはとても大切な部分です。奈良にいると、相撲のことだけでなく日本のすべての伝統、伝承を常日頃から強く感じられます。相撲2000年の伝統の中で、白鵬の位置づけがどうなるのかを書きたいと思いました。そんな発想、東京にいたら絶対出てこなかったでしょう。
そしてもうひとつ。私は“伝えたいこと”があった。その意味が一番大きい。その『伝』です。『なぜ白鵬は強いのか』という部分を伝えていきたかったのです」