――むしろリアリティある世界観を追求しているのかと思いました。
北条 まったく逆ですよ。馬鹿馬鹿しいことをやるのがマンガだと思うので、「物理的にあり得ない」とか言われるのはイヤなんです。『キャッツ・アイ』に出てくる愛の発明品だって、適当ですよ(笑)。
「マンガはデタラメでいい」と“こだわり続けるリアリティ”
――北条先生の精緻な絵柄は、どのように確立していったのでしょうか?
北条 うーん……、『キャッツ・アイ』が自分の絵だと思ったためしはないですね。もともと劇画っぽい絵を描いていたんですが、連載を始める前に担当編集から「マンガっぽい絵にしてくれ」と言われたんですよ。それから試行錯誤を続け、いまだに自分の絵を探しています。
――「マンガっぽい」とは、具体的にどういうことでしょうか?
北条 省略ですね。たとえば黒い服を着ていて上から光が当たっていたら、テカりをつけるんですけど、それを真っ黒にするとか。あるいは髪のツヤは描かないとか。もっとシンプルにしろ、目を大きくしろ、とかね。
どうも僕には描き込み癖があるらしくて、シャッと線を一本引くだけで皺を表現する、みたいなことができない。だんだんとグラデーションをかけて、細かく、細かくやっていってしまう。
一度リアリティの水準を上げると、その作品内では下げられないですからね。『Angel Heart』のときは本当に細かい絵を描いていて、「なんでこんなこと始めちゃったんだろう?」と、自分で辟易しちゃったんです。もうあんな絵は描けないよ(笑)。
――「癖」と言うほど、自然に描き込んでしまうんですね。
北条 そう。そもそも「光がないと絵って存在できないんじゃないの?」と思ってまして。外で会話するシーンを描くなら、太陽の位置がどこにあるのかを考えます。人が対峙していたら、影の付き方は逆になるよね、……っていうところから設定しないと、絵は始まらないんですよ。