日曜夜の名物・NHKの大河ドラマは2023年の『どうする家康』で放送開始60年を迎える。井伊直弼を主人公にした『花の生涯』(1963年)からはじまった大型歴史ドラマは、時代の流れと共に様々な変遷を遂げてきた。

 初期は教養ドラマとしての要素が強かったが次第に娯楽ドラマを意識したものとなり、いわゆる合戦などのある時代ものから近代路線に転換したり(戦後が舞台で実在の人物の出ない『いのち』〔86年〕など)、女性を主人公にしたり(最高視聴率29.2%を獲った『篤姫』〔08年〕など)、最新研究に基づいた新たな視点を採用したり(信長を裏切った謀反人のイメージの強い明智光秀の意外な側面に迫った『麒麟がくる』〔20年〕など)と試行錯誤を繰り返してきた。

家康が再々評価される可能性

 驚きの変化といえば、大河に多く関わった演出家・大原誠の著書『NHK大河ドラマの歳月』を読むと、その昔「平安、家康、明治」は当たらないとされていたという。平安はまだしも、戦国ものはテッパンと思っていたが信長や秀吉と比べると家康人気はないと考えられていた時代があるとは……。2023年『どうする家康』、2024年『光る君へ』は家康に平安である。どうする、ならぬどうしたNHK? と思いきや、『徳川家康』がヒットした時代もあった。バブルが来る前の1983年、日本が低成長期に陥っていた頃、家康のような堅実な人物が再評価された。

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『どうする家康』主演の松本潤 ©文藝春秋

 家康は信長や秀吉のように乱世を派手なパフォーマンスで生き抜いてきた人物とは異なる。その代わり、260年もの長い間、幕府を維持し、戦のない時代を守る礎を作った安定の人物だ。かつてない経済状況と不穏なことが続く平成の終わりから令和にかけて、家康が再々評価される可能性は高い。目立ったことはしたくない、なにより安定が大事で、コスパやタイパを重視する現代の若者たちが人質生活を経て地道に生き抜いてきた家康に共感してもおかしくはないだろう。