贈与についても厳しい日本
この状況を解決するためには、資産を持つ高齢者がなるべく早期に次の世代、あるいはさらにその次の世代に資産を受け継がせたほうが有利な社会にしていくことだ。相続まで待たずに早めの贈与を促すことで資産の移転を早めていくのだ。
ところが、日本は贈与についても極めて厳しいスタンスの国である。例えば父から子(成人)に1000万円を贈与しようとすると税率は特例贈与財産用の税率適用で30%かかる。子が未成年だと税率は上がり40%だ。つまり、若い世代へ贈与することをなるべくさせない方向に税制が決められている。
一般的によく知られているのは年間で110万円の範囲ならば贈与税がかからないというものだ。しかし、年間110万円では月額にして10万円にすら届かない。しかも相続発生時には発生前3年間に行われた贈与分は、相続財産にカウントされてしまう。えっちらおっちら10年かけて移転できるのはせいぜい1100万円にすぎない。この枠すら今回の税制改正では相続発生前3年間のカウントを7年に延ばそうという方向性が打ち出されている。
「相続は世界随一の高水準で税金をいただく」
いっぽう国は「住宅」「教育」「結婚・子育て」については、いずれも贈与について期限付きで非課税枠を設けている。
住宅取得資金贈与に関しては、省エネ住宅であれば最大1000万円まで、それ以外では500万円までの贈与が非課税だ。教育資金贈与は子や孫に教育用として最大1500万円までの贈与が非課税になる。ただし子や孫が30歳になった時点で使い残しがあると、その分は課税されてしまう。結婚・子育て資金贈与は子や孫に贈与した挙式や披露宴、出産、不妊治療などの資金について一定額を非課税とするもの。ただし子や孫が50歳に達した段階での残額は課税対象となる。
富裕層の中で資産額が大きい世帯では、年間110万円を超えて贈与して、贈与税を払うほうが、相続税よりも安くなるラインを見極めて戦略的に贈与するケースもあるが、いずれにしても、国の基本的方針は「贈与もだめ。相続は世界随一の高水準で税金をいただく」という発想だ。
一部に認めている特別非課税枠も、「住宅」「教育」「結婚・子育て」といった具合に用途を限定している。この非課税枠の背景にある考え方は、非課税にする対象が、昭和時代の家族の成長過程にしか目を向けないものになっていることだ。つまり子供は結婚するものだ。挙式費用はたいへんだろ。結婚すれば子供を産むものだ。出産費用必要だろ。子供の教育大変だろ。家も買わなくちゃいけないだろ。だからこうした費用が掛かる分への贈与については少しお目こぼしをしてあげよう、だいたいがこの発想だ。昭和家族の肖像とでもいうものか。
これからの時代、家は絶対に買わなければならないものだろうか。結婚しない人もいる。子供を授からない、持つつもりがない人もいる。こうした考え方には一切寄り添わない税制といえよう。