新しい時代に即した税制の提案
新しい時代に即した税制は、親世代から子や孫世代になるべく早期に財産を移転しやすくすることだ。したがって時限立法などにせず、用途は自由にして、子や孫が本当に必要なときに、機動的に補助してあげるものでよいのではないだろうか。相続税を高水準でとるのならば、贈与税についてはなるべく税率を低く設定する。相続時までもっているよりも早く子や孫に移転したほうがトクだと思わせる税制の制定だ。
こうしたことを言うと必ず資産格差を助長するだのといった誹りがくるが、贈与枠でコントロールすればよい。数年前金融庁のワーキンググループが発表して物議をかもした老後2000万円問題があるのであれば、非課税贈与枠を2000万円とすればよく、それ以上の贈与については高い税率にすればよいだけだ。障碍者の方などについてはさらに枠を広げてもよいだろう。
最もお金を必要としている世代に、お金を貯めこんでいる親世代から資金を融通してあげる。美しい話ではないか。親子間の会話ももっと活発になるだろう。資金援助をされた子は親に感謝する。孫は祖父母のことを一生忘れない。そうしてこそ親が要介護になったときも、子が恩返しとして喜んで親の世話をするというものだ。
的確にお金が流れる方法
これが相続した時にしか財産移転がなされない、となると資産を受け継ぐ子ももう高齢者。親が長生きしすぎて「ああ、やっと死んだか」などと呟きかねない。子も親からもらった資産を使う当てもないから老後資金として貯金しておくだけになる。
また家族だけが贈与対象ではないはずだ。お世話になった個人に感謝の意味を込めて贈与する資産についても幅広く非課税枠を創設してみたらどうだろうか。親不孝の子にわざわざ移転する必要がないと思うのならば、本当に自分が贈与したい人に対して、自らの考えで贈与する。素晴らしいことだと思う。
こうした考えでの贈与が広まれば、世の中の本当にお金を必要としているところに、的確にお金が流れ、社会を活性化させていくことにつながる。
国の税制調査会では、贈与税と相続税に関しては熱い議論が戦わされているようであるが、旧来の伝統的な家族観から抜け出した議論が行われている形跡がない。贈与税と相続税の一体化についての議論も、相続時精算課税制度といって、贈与した分は相続時に相続財産としてまとめて課税しようというだけの小手先のものだ。これを飴玉にして、年間110万円の非課税贈与枠についての適用を縮小する方向性を打ち出していることも、結局最後は税金として全部もっていくぜ、と言い直しているにすぎない。
税負担の公平化といえば聞こえは良いが、長生きになった日本においては高齢者を中心に沈殿している資産を早期に社会に還元していくような抜本的な税制改革を行っていかない限り、日本の未来は相変わらずのシルバー優先社会の呪縛から脱することはできないのである。