日本に相続税が導入されたのは1905(明治38)年、日露戦争の戦費調達のために設けられたことによるものだ。当時膨大な額に膨れ上がる戦費を賄うために国は、酒税、所得税、固定資産税の引き上げを実施したが、それだけでは足りず、欧米などの制度に倣って導入したのがはじまりだ。
この措置は戦費調達のための臨時的なものとされていたが、戦勝国となり多額の賠償金を得られると見込んでいたものを得ることができず、相続税はそのまま存続することになった。
日本の最高税率は55%
戦後の一時期、相続税は思い切り強化された。シャウプ勧告に基づいて1950年に行われた税制改革では、GHQの意向を受けて、財閥への財産の一極集中を避けることを目的に相続税の最高税率を90%としたのだ。あくまでも一時的な措置であったので、1952年には最高税率は70%に縮減されたが、その後この税率は2003年に50%になるまで続く。そして現在の最高税率である55%は2015年度の改正によるものだ。
この最高税率の水準は世界の中でも突出している。ヨーロッパの中でも比較的相続に厳しいとされるフランスでも45%、ドイツは30%だ。
税額を計算する際に用いられる配偶者控除や基礎控除額についても大きな差がある。配偶者控除に関して、日本は一律で1億6000万円だが、アメリカやイギリス、フランスは金額にかかわらず非課税である。基礎控除額についても算式は各国で異なるが、諸外国はおおむね高い。ちなみに日本は法定相続人が2名(配偶者と子などの場合)で、基礎控除額は4200万円にすぎない。
高齢化による「老老相続」
人口の減少や高齢化によって日本の国力が減退していると指摘されて久しいが、日本人が長生きになっていることは相続面においては資産の移転がすすまないことにつながる。80歳代や90歳代の親が亡くなって資産を相続するのは50歳代や60歳代だ。各種調査でも明らかなように高齢世帯になるほど金融資産、不動産を多く保有しているいっぽうで20歳代から40歳代まで、社会の中核として最も消費を活発に行う世代は、給与などの所得がなかなか伸びない中でローンの返済、物価の高騰、教育費などの重圧を受けて、自由になるお金や資産がない状況下にある。相続が発生しても、もうあまり消費に興味のなくなった老いた息子や娘に引き継がれる「老老相続」は、資産を受け取る相続人側も高齢化しているために、受け取った資産をそのまま貯めこみ、消費に回さないという悪循環につながる。