ヒグマはおおむね6、7月ごろに交尾するが、すぐに妊娠するわけではない。受精卵はすぐに子宮に着床せず、卵管内にしばらくとどまり、秋の栄養状態がよければ着床し妊娠するが、栄養状態が悪ければ流産する。「着床遅延」と言われる繁殖法である。
「母熊が産む頭数も栄養状態と関係していると思われます。現に、5年ほど前にドングリが空前の大豊作だった翌年は、みんな3頭連れの母熊ばかりでした。それが最近じゃ、毎年のように3頭連れを見かけるようになった。それだけ栄養状態がいいわけです」
「その辺の藪に入ればクマの痕跡だらけ」
なぜか。恐らくヒグマの生息域が人間の生活圏と接近し、農作物や牧草、あるいは家畜用のデントコーンなど、人間が作る栄養価の高いものを日常的に口にするようになった影響ではないか、という。
「多頭出産してもその後の栄養状態が悪ければ、子熊の数は減ってしまうのですが、栄養状態がよければ全頭生き残る可能性が高くなる。また、親離れの仕方も変わってきて、これまではオスは産まれた場所から離れるのが普通でしたが、最近は、母熊の近くから離れない。しかもその生息域は人間の生活域のすぐ近くです。子熊は母熊からいろんなことを教わるわけですが、その中に『人間は怖いもの』という教えは含まれていないのではないか。むしろ『人間の近くで暮らしていれば何かと便利だ。人間は怖くない』と教えている世代だと思う。だからものすごく警戒心が薄い。本当にその辺の藪の中に入っただけで、ヒグマの痕跡だらけですから。
そんなことを知らない人たちが山菜採りに、その藪の中に平気で入っていく。事故が起こらないほうが不思議な状況なんです。にもかかわらず行政の方は銃をめぐる規制を強める方向にあり、ハンターの人材不足は深刻そのものです」
全国のハンターが一目おく「北の鉄砲師」が放つ言葉は重く響く。では、こうした状況を前に「羆撃ち」たちは何を思い、どう対抗しようとしているのか。
私は山崎の紹介で、ある「羆撃ち」の門を叩いた。
(連載次回に続く/文中敬称略)
2022年「クマ部門」BEST5 結果一覧
1位:「巨大ヒグマがダダッと駆け降りて『グワァ』と…」4回ヒグマと遭遇した“ハンター御用達”職人が最も危険を感じた瞬間
https://bunshun.jp/articles/-/59793
2位:出てきたのは女の髪の毛、赤子の両手…人喰いヒグマを解剖してわかった「衝撃の中身」
https://bunshun.jp/articles/-/59791
3位:「両足の肉がほとんど食い尽くされていた」留守番中の11歳少女を襲った「1904年のヒグマ襲撃事件」の惨劇
https://bunshun.jp/articles/-/59790
4位:「腹破らんでくれ!」胎児を含む7人が殺害…国内最多の死者数を出した「三毛別ヒグマ事件」の壮絶
https://bunshun.jp/articles/-/59789
5位:「と……と、とにかく、逃げられるだけ逃げよう」大熊に追われたハンター3人…銃も使えない絶体絶命の逃走劇
https://bunshun.jp/articles/-/59788