1ページ目から読む
2/3ページ目

 昼食をごいっしょさせていただいた後、三時くらいまでいつものように懇談が続いた。

「梅を見に行きませんか」

 陛下がそうおっしゃったので、両陛下と私たち四人は御所から外に出た。

ADVERTISEMENT

 その日は曇り空の寒い日で最高気温は8℃。枯葉が積もるむき出しの土を踏みしめながら歩いていくと、日陰にはところどころ霜が残っていた。「運動靴で」と言われた意味がようやくわかった。(略)

 陛下と美智子さまは並んで先を行かれた。その足は意外なほど速く、ぐんぐん進まれるので、こちらが油断していると置いて行かれてしまう。同行した宮内庁職員と話をしながら歩いたこともあるが、お二人に付いて行くのが精いっぱいだった。

 そのうちに道から外れ、枯芝が広がるところに出た。両陛下は歩き続ける。行き先はおっしゃらない。御所からは離れていく方角だった。私たちは「どこに行くのだろう」と思いながら付いて行った。

上皇上皇后両陛下 宮内庁提供

「ここですよ、この前のお話に出ていた防空壕の入口は」

 枯芝の先に古い、いかつい重厚な建物が立っていた。陛下はそこまで来てようやく、

「ここですよ、この前のお話に出ていた防空壕の入口は」

 と教えてくれた。草木に覆われた向こうにコンクリートの壁と鉄の扉がわずかに見えた。私と半藤さんは顔を見合わせて、両陛下のお心遣いに感謝した。

大本営地下壕の出入口 宮内庁提供

 陛下は私たちに向って、

「ここで終戦の時の会議が開かれたんですね。今はタヌキが住んでいるらしいですよ」

 そう笑顔で言い添えた。