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昼食をごいっしょさせていただいた後、三時くらいまでいつものように懇談が続いた。
「梅を見に行きませんか」
陛下がそうおっしゃったので、両陛下と私たち四人は御所から外に出た。
その日は曇り空の寒い日で最高気温は8℃。枯葉が積もるむき出しの土を踏みしめながら歩いていくと、日陰にはところどころ霜が残っていた。「運動靴で」と言われた意味がようやくわかった。(略)
陛下と美智子さまは並んで先を行かれた。その足は意外なほど速く、ぐんぐん進まれるので、こちらが油断していると置いて行かれてしまう。同行した宮内庁職員と話をしながら歩いたこともあるが、お二人に付いて行くのが精いっぱいだった。
そのうちに道から外れ、枯芝が広がるところに出た。両陛下は歩き続ける。行き先はおっしゃらない。御所からは離れていく方角だった。私たちは「どこに行くのだろう」と思いながら付いて行った。
「ここですよ、この前のお話に出ていた防空壕の入口は」
枯芝の先に古い、いかつい重厚な建物が立っていた。陛下はそこまで来てようやく、
「ここですよ、この前のお話に出ていた防空壕の入口は」
と教えてくれた。草木に覆われた向こうにコンクリートの壁と鉄の扉がわずかに見えた。私と半藤さんは顔を見合わせて、両陛下のお心遣いに感謝した。
陛下は私たちに向って、
「ここで終戦の時の会議が開かれたんですね。今はタヌキが住んでいるらしいですよ」
そう笑顔で言い添えた。