戸田 本当にねえ。でも忙しいのが好きなんです。完全主義といいますか、映画作りが彼にとって唯一の情熱で、企画の段階から最後まで自分でコントロールしていますから。ああいう俳優さんは他に知りませんね。
――スターだからストレスも大きいでしょうに。
戸田 もちろんそうだと思います。でも彼がスタッフに意地悪を言っているとか、何か怒っているとかいう場面を私は見たことがありません。
でもこの間、コロナに関して彼がスタッフに怒ったことがあったでしょう?(20年12月、ソーシャルディスタンスを守らなかったスタッフを怒鳴る音声が流出) 初めて彼が怒った声を聞きましたよ。でもあれは彼の方が正論だったでしょ。
「実はもう東京にいる」「予定が変わったから一緒にお茶を飲もう」
――そう思います。トムはインプットもすごくしているんじゃないかと思うんですが、観た映画や読んだ本の話など聞かれたことはありますか?
戸田 いわゆるプライベートの話を全然しないって言ったけど、こないだ『マーヴェリック』のプロモーションで来たときに、ほんとに初めて3時間ぐらい、お茶を飲んで、なんでもない話をしたんです。
――戸田さんが通訳をする、最後のタイミングで。
戸田 ええ。最初、トムが来る予定だった日に、バイデン大統領も来日することになったんです。だから空港の都合で1日早く来たのかも。それで電話がかかってきて、携帯を見て「あらトムだわ」なんて(笑)。出たら、「実はもう東京にいる」って言うんです。「予定が変わったから一緒にお茶を飲もう」って。それでホテルに行って初めてお茶飲み話をしました。
――へえー。どういう話をされたんですか?
戸田 今までそういう話をしてこなかったけど、あの人、本ッ当に映画観ているんですね。ヒッチコックなんかものすごくよく観ているんです。私、嬉しくなっちゃって(笑)。ヒッチコックの『汚名』って映画、私も大好きなんだけど、彼がそのカメラワークの話をし始めて、延々と終わらないんです。たまたまヒッチコックの話だったけど、他もたくさん観ていると思いますね。