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伊藤 いやあ、むちゃくちゃうれしいな。「薬草喩品」って比較的マイナーなお経なんですよ。お母様は本当に法華経をくまなく、よく読んでいらっしゃったんですね。

内田 もう少し私も法華経を知ろうとしていたら、もっと深い話ができたのにと思うと、母が亡くなって既に4年が過ぎましたが、ちょっと切なくなっちゃって。

内田也哉子さん

臨終の間際、電話越しの呼びかけに手を握り返して答えた

 父の内田裕也はロックンローラーなんですけど、破天荒で、いろいろな無理難題を吹っかけてくる人だったので、母は「私にとっての提婆達多(だいばだった)だ」って言っていたんです。提婆達多はお釈迦様の弟子で、いつもお釈迦様の邪魔をするんですか。

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伊藤 チャレンジャーなんです。あんまりよくない挑戦ばかり仕掛けてくるんですけどね。

内田 ああ、まさに父です(笑)。だから結婚生活は無理だったし、母とはたまに会えばケンカばかりしていましたけど、臨終の間際、夜中だったけど電話で父を叩き起こして、電話越しに父が「啓子っ、啓子っ」って母の本名を呼んだんです。

 その瞬間、母はもう意識はないように見えたのに、母の手を取っていた孫の手をギューッと握り返したんですよ。そして息を引き取りました。

●伊藤さんが唯一気に入っているという法華経の一編や、2人が「手を合わせる」ということができない理由、也哉子さんが19歳で結婚した際のエピソードなど、対談全文は『週刊文春WOMAN2023創刊4周年記念号』でお読みいただけます。

いとうひろみ/ 1955年東京都生まれ。詩人。78年、現代詩手帖賞を受賞。性と身体、のちには生殖を赤裸々に扱い、80年代の女性詩人ブームをリード。『良いおっぱい 悪いおっぱい』などの育児エッセイでも活躍。代表作に『河原荒草』(高見順賞)、『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』(萩原朔太郎賞、紫式部文学賞)。夫の死を機に約20年の米国生活を終え、2018年に帰国。近年はお経の現代語訳に力を注ぐ。

 

うちだややこ/ 1976年東京生まれ。エッセイ、翻訳、作詞、ナレーションのほか音楽ユニットsighboatでも活動。著書に『ペーパームービー』『会見記』『BROOCH』『9月1日 母からのバトン』『なんで家族を続けるの?』(中野信子との共著)など。翻訳絵本に『点 きみとぼくはここにいる』など。