柊 時間、ですかね。高校生くらいまでは恥ずかしさやモヤモヤがあったので、純粋な気持ちで『千と千尋』を楽しめなかった。でも、大人になってからは、客観的に作品を観られるようになったんです。
もともと「テレビやCMに出て、一生の記念になる習い事」みたいな感覚でこの業界に入って、演技が楽しいから続けてきました。
でも、あんまり目立つのは得意じゃないんです。演じるのは大好きなんだけど、その姿を知り合いに見られたり、感想を言われたりするのはなんだかこそばゆいというか。そこに思春期の自意識も相まって、長い間『千と千尋』に向き合えなかったんだと思います。
「あれ、実はこの話、ものすごく面白いんじゃない?」
――大人になってから観たときには、変化がありましたか。
柊 20歳くらいのとき、金曜ロードショーで放送していたのをなんとなく観ていたら、「あれ、実はこの話、ものすごく面白いんじゃない?」とやっと気づきました(笑)。
以前は恥ずかしさやモヤモヤがあったから、ある意味「千尋」しか目に入らなかったけど、実は魅力的なキャラクターばかりなんだと知りましたね。
あとは、自分の年齢や置かれている環境によって、観る視点が変わるのも『千と千尋』の魅力だと感じるようになりました。
例えば、大人になると湯婆婆の愛情やリンさんの優しさが心にしみたり。それに気づいたときに初めて「私、本当に偉大な作品に関わっていたんだな」と心から実感できたのかもしれません。
――今の柊さんにとって、『千と千尋』はどのような作品になりましたか。
柊 今は「『千と千尋』が私の代表作です」と胸を張って言えるようになりましたね。公開から20年以上が経っているのに、初対面の人も私のことを「ええ、あの千尋役の方ですか!?」とわかってくれるんですよ。
こうやって、歳を重ねれば重ねるほどすごさを感じられる作品は、なかなかないと思うんです。「私、とんでもない仕事に巡り合ったんだな」という感覚を年々更新し続けています(笑)。
撮影=石川啓次/文藝春秋