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 しかし、新型コロナウイルスの影響により、三寸は倉庫に積み上げられて出番がない。縁日の場を奪われた子どもたちの落胆は、察するに余りある。しかし、もっと切実なのはテキヤ稼業の人たちである。

 もともと、テキヤは大きく儲かる業態ではない。創意工夫を凝らしたところで、三寸(売台)ひとつあたり、息つく暇もなく大いに売れたとしても日に15万円程度。それも祭りの期間に限られる。場所代など、出ていくカネもバカにならない。祭りの時に出店するテキヤ稼業だけでは、到底食っていけそうにない。

ヤクザとの付き合いは出費がかさむ

 筆者と共にバイしテキヤの知人いわく、親分クラスになると、他にも商売をしているとのこと。たとえば、中古車屋や飲み屋などの副業を持っているから、縁日のバイ以外からも収入がある。親分クラスには、テキヤの庭場(ショバ)の地域をシマとするヤクザとの付き合いがある(注釈)。

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 だから、出費も多いのだと言う。ちなみに、テキヤの若い衆はカタギだが、本家の親分に限っては土地のヤクザの親分と、兄弟分の盃を交わすケースもある。その理由は、「みな組長や一家の代表者が『オツキアイ』は俺一人でという気持で、類を下部に及ぼさないよう防波堤の役を一身に引き受けている」からである(北園忠治『香具師はつらいよ』葦書房、1990年、27頁)。

 コロナでバイが出来ないから、ちょっと月のモノを待ってくれと言って、「はい、そうですか」というような訳にはいかない。月のモノとは、互助会費、テキヤの団体に払う会費のことだ。税金や国民健康保険料も取り立てがうるさい。関東の由緒あるテキヤ組織の元幹部の大和氏(仮名)によると、年末のバイが終わるタイミングを見計らって、役所の人間が集金に来ていたそうである。

 こうした固定経費以外にも付き合いがある。テキヤの庭場があるシマを治めるヤクザの親分の誕生会では30万円、襲名披露式には100万円、お悔やみ事には30万円など、稼業違いとの付き合いにも出費がかさむ。縁日が毎月開かれる訳ではないから、親分クラスの者は、副業を持たなくてはやり繰りできない。