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 しかし、今回は、モノを売る業界全体がコロナの影響を受け、消費が冷え込んでいることから、随分とテキヤの台所事情は厳しいのではないかと、テキヤの知人は心配する。彼がテキヤ稼業から足を洗って、サラリーマン生活に移行しても困らなかったのは、蓄えがあったからである。

 テキヤと稼業違いのヤクザでも、チャッカリした者は、現役時代から二足の草鞋を履き、引退後の生活に備えてカタギの商売をしている(細君にさせているケースが多い)。一方、「宵越しのカネは持たない」オラオラ系の生き方をしたヤクザは、組織が解散したり、破門で籍を失ったりすると、途端に困窮するのである。

縁日以外の営業努力がものを言う

 テキヤは祭りが無い期間、何をしているのか疑問に思われる人も多いだろう。資金力がある者は、先述したように中古車を売ったり、スナックの経営などはできるが、若い者にそうした器量はない。

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 そこは、親分や兄貴分の顔がものを言う。テキヤの知人の言によると、祭りが無い時期は、専らヒラビ(平日)というスタイルで商売をしていたという。神社の境内などで、祭りでもないのにポツンとたこ焼きなど売っているのもテキヤのヒラビだが、彼の場合は、スーパーなどに営業をして、店頭(駐車場の片隅など)に三寸を組んで焼き鳥などを売っていたという。

©getty

 地元のスーパーに営業をかける以上、会社名が入った名刺と、店長へ献上する菓子折りを持ち、足繁くスーパーに通って出店のお願いをする。そうしたら「一度、店を出していいよ」と、根負けして折れてくれる。そこで売り上げを上げると、系列店にもお願いに行き、数店舗のヒラビが営業できるようになるのである。ちなみに、テキヤの知人は100円焼き鳥を定期的にヒラビで販売していた。

 テキヤの仲間内では、こうしたスタイルのヒラビはネス(素人)のすることで、邪道だという者もいる。しかし、ヒラビは地域密着型のバイであり、1か所あたり毎日3万円ほどの売り上げになる。多い日は7万円くらい稼げるとのこと。しかも、このスタイルで商売した場合、奉納金や上納金を納める必要がない。軒先を借りたスーパーと取り決めた出店料を払えば済むから、ボロい商売である。

 テキヤの知人がヒラビをやっていた頃は、近所のマンションの住民が常連になり、皿を持って買いにきていたそうである。常連客をつくるために、たまにはオマケで数本の焼き鳥を付けてやる。人間関係ができることで、地域の人に喜んでもらえ、祭りが無い時期でも若い衆に給料を払えたと、当時を回想する。

 邪道だろうが何だろうが、祭りが開かれないコロナ禍の現在、このような地域密着型のバイをしていないと、テキヤも生き残れない。