息つく暇もなく大いに売れたとしても日に15万円程度――祭りや縁日のときは大盛況のテキヤ稼業だが、実は出費も多く、副業をしないと食っていけない者がほとんどだ。さらに親分クラスになれば、ヤクザとの付き合いにも出費がかさむという……。知られざる「テキヤの金銭事情」とは?
テキヤ文化に詳しい社会学者の廣末登氏の新刊『テキヤの掟』(角川新書)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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副業がないと厳しい
2020年以降、コロナ禍が世界を覆い、これまでの日常生活は一変した。とりわけ、飛沫感染が問題視された結果、「外出自粛」の要請が行政から出され、飲食店や興行関係は大打撃を受けた。その影響は、テキヤにとっては普通の飲食店よりも甚大であった。何せ、人が集まってはいけない。神社仏閣の縁日や夏の花火大会といったイベントから花見に至るまで自粛の対象であるから、テキヤはバイができないし、テイクアウトの対象にもならないのだ。
このテキヤにとって冬の時代、筆者の地元福岡はどうであったか。福岡における傾向と対策から紹介する。
福岡市の市民的な祭りであり、庭場の一家にとっては1年で一番の書き入れ時、諸国旅人さんの商売に貢献する放生会というお祭りがある。2020年は、新型コロナウイルスが長期化する恐れがあることから、筥崎宮のHPに以下のような案内が出た(2021年にも同様の案内が掲示された)。
放生会大祭期間中、境内の閉門時間は19時迄と致します
「博多三大祭放生会」の開催を楽しみにしていた皆様、お祭り等に関わる全ての皆様方には、このような判断になったことは断腸の思いですが、皆様の安全を最優先にした決定に、何卒ご理解をいただき、明年以降の当大祭にご支援とご協力を賜ります様お願い申し上げます。(2020年の「お知らせ」)
東北三大祭りである「青森ねぶた祭」「秋田竿燈まつり」「仙台七夕まつり」なども「密」を避け、感染症の拡大を抑えるという目的で中止や規模縮小を余儀なくされているから、仕方ない仕儀とは思われる。しかし、大正期のインフルエンザ(スペイン風邪)の時でも祭りが開催されていたことを考えれば、2020年、2021年は、テキヤ・神農会の歴史を紐解いても、異例中の異例であったといえる。
テキヤの縄張りは庭場という(ヤクザの縄張りはシマ)。ニワ外に商売に行けば、旅人さんであり、オトモダチである。九州のテキヤは、何も九州内だけで商売をするのではなく、関東あたりまで出向いて三寸を組む。
これは、「どこそこの祭り(タカマチ)まではるばる旅をしてバイをしてきたといえば、彼らの自慢になるんだ」と、業界人に聞いた。