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「もしケンカになったら私が勝ちますからね(笑)」(京子さん)

「インターネットやSNSの発達も、生き方を変えてくれました」

 そう語るのは片山自身である。

「ベッドの真上にリモコンや携帯電話などを固定設置したうえで、ストローの2倍くらいの長さの棒をくわえ、ボタンを操作する。自分でメールもできますし、コミュニケーションの可能性は大きく広がりました」

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 たとえ手足が動かせなかったとしても、通信手段を確保できる。そのことは、障害者の社会参加を助ける大きなメリットがあると片山は語る。

「私は、そんなに優しい妻でもないですよ。本人はなんでも自分でやろうとする性格だし、負けん気が強いですから、いまはもうイヤなことはイヤと言ってるかな……。もしケンカになったら私が勝ちますからね(笑)」(京子さん)

東京ドームを訪れた時の片山さん

 片山が困った顔で言う。

「そうなんですよ。“じゃあ勝手にして”と言われたら、こっちはそれまでなんでね(笑)」

 取材の後、京子さんは人生の半分以上の時間を費やした介護生活を総括した。

「還暦に近い年齢になって思うのは、周囲の方々に助けていただいたことはもちろんとして、私自身が主人に支えられてきたということですね。愚痴をこぼしたり、一緒になって怒ったり、笑ったり……支え合うという本当の意味が少しだけ分かったような気がします」

「人を支えている」と意識している人間が、実は自分も他者に支えられていることに思い至るのは、大変難しいことである。

 

 31年前の事故は、片山夫妻の人生を大きく変えた。だが、困難な問題に正面から向き合った時間はいま、結晶のような輝きを2人にもたらしている。

 1981年に刊行され、ベストセラーとなった『愛、深き淵より。』(星野富弘著、立風書房)は、部活指導中の事故で頚髄を損傷し、四肢の自由を失った若き体育教師の物語であった。この本は、いまなお看護を志す学生の教材にも活用されている。

 著者の星野さんは、自らの詩画のなかで「神様がたった一度だけこの腕を動かして下さるとしたら 母の肩をたたかせてもらおう」と書いた。

 本当の困難を乗り越えた人間は、やがて感謝に至る――それはおそらく事実のようである。