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本当に「不正入試」だったのか? 「早く済む」と考えて署名押印したことも…東京医大理事長が検察の取り調べに抱いた“恐怖”

『東京医大「不正入試」事件 特捜検察に狙われた文科省幹部 父と息子の闘い』より#2

2023/01/19
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 臼井はその後も、水野に指定された時間どおりに特捜部に来庁して取り調べを受けた。初日に続く2日連続となった6月19日は午後1時20分に始まり、6時19分に終了(取り調べ時間約5時間)。3日目以降は昼食を終えた午後の時間帯に行われ、平均4時間前後で終了したものの、7月9日の6時間23分(午後7時3分終了)のように、全12通の検面調書が作成された日の取り調べはすべて長時間に及んだ。

 その間、トイレ休憩以外の臼井の休憩時間は、水野が調べ物のため席を短時間外す場合のみだった。最終的な取り調べ回数は18年6月18日から同年8月12日までの28回に上っている。

「イメージとしては連続して3~4時間座って話をしていたと思います。椅子は肘掛けのないタイプで、腕は机に乗せるのではなく下に降ろした状態。少し崩した姿勢でいると水野検事から真っ直ぐ向いているよう注意されましたが、それでも少し背凭(せもた)れに凭れかかるような姿勢で座っていました。机に臥せって体重をかけて休むような姿勢は許してもらえませんでした。

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 水野検事から『録画しているから姿勢を真っ直ぐにしていなさい』とはっきり注意された記憶はありませんが、真っ直ぐ向いて目線はあちら(ビデオカメラ)のほうに合わせるよう言われました(注:実際に臼井の取り調べの様子が録音録画されていたのは、初日と2日目の最後の10分間程度に過ぎない。しかも検面調書に署名押印した臼井が調書の記載内容を振り返り、それについて水野が改めて臼井に質問して答えさせている様子を記録したもので、取り調べそのものの様子ではない。臼井は水野の様子や指示などから、取り調べの様子はすべて録音録画されていると信じていた)」

©AFLO

 鬱症状で眠れない臼井が取り調べの時期に服用していた睡眠導入剤「デパス錠」は抗不安効果だけでなく催眠作用や筋弛緩作用があるため、翌朝起床しても影響が残り、取り調べの際には注意力や集中力の低下が起きた。これについて臼井は公判で、弁護人とこんなやり取りをしている。

弁護人    そういう薬を飲むと何か影響は出るのか。

臼井    少しだるくなる場合もありましたし、迎合的になるというか、そういうようなことで、はっきりと立ち向かっていくというようなことが、なかなかできない感じはありました。

弁護人    連日の取り調べが終わって帰宅した後、どのような状態だったのか。

臼井    取り調べの終わり頃になるとグッタリして、家に帰るとすぐに休む、つまり寝込む状態でした。

弁護人    翌日また取り調べで出掛ける際に苦労はなかったのか。

臼井    結構つらいところがありました。

 また、利き目の右眼の視野の大半が欠損している臼井は、事件関係の資料に目を通す際、弁護人に依頼して資料をUSBメモリーに保存してもらい、それを自宅に持ち帰って、デスクトップパソコンの大画面に映し出して読んでいた。そうしなければ文字を長時間読むことができないからだ。

「検察と国税はツーカーなんだ」

 こうした状況下にある臼井に、水野による取り調べから来るストレスが加わった。掛かりつけの心療内科医の18年7月18日付の所見には「大学関係のトラブルで大変らしい。そのためストレスフルな毎日を送っているという」との記載がある。臼井はこの記載について、公判で「検察官から細かいことをいっぱい言われると、今まで自分に起きたことがまたありありと蘇ってきて、メンタル的に良くなかった」と話した。